ジェンダーとLGBTQをテーマにしたブックフェア、『キミイロって何色?〜消えない虹をキャンバスに〜』が8月31日まで、千葉県の船橋市西図書館で実施されている。開催は昨年に続き2度目。企画のアイデア出しからテーマの決定、展示する本の選書に至るまで、プロデュースしたのは地元の学校に通う16人の中高生だ。
主催する認定NPO法人『JASH日本性の健康協会』代表・あみちえさんと高校生のメンバーに、ブックフェアに込めた思いを聞いた。
LGBTQとは、レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、クィア(クエスチョニング)の頭文字をとった言葉で、性的少数者の総称。ブックフェアの開催にあたり学生ボランティアを募集した際、あみちえさんは集まった中高生たちに「LGBTQという言葉を聞いたことがある人?」と尋ねた。すると、その場にいたほぼ全員が手を挙げた。
「船橋市ではここ数年、制服のブレザーに合わせるスカートやスラックスを生徒自身が選ぶことのできる、制服選択制の学校が増えつつある。そのため子どもたちにとって、ジェンダーやセクシャリティーの問題は身近に感じられるのかもしれない」と、あみちえさん。
日本にいるLGBTQの割合は、調査によって多少のばらつきがあるものの、約3~10%とされている。周りに当事者がいないという人も依然、珍しくない。
あみちえさんが続ける。
「まずは知ることから。知識を得て、LGBTQの人たちのリアルな声を聞き、それらを元に自分自身で考えてほしい。そのきっかけとして、ブックフェアができればと考えた。図書館は世代を問わず多くの人が集まる、開かれた場所。当事者の思いが届きやすいのではないかと思った」
実際、8月13日に記者がブックフェアの会場を訪れると、若い男性が展示された本を手に取り、1冊ずつ熱心に目を通していた。『10代から知っておきたい女性を閉じ込める「ズルい言葉」』(WAVE出版)、『13歳から知っておきたいLGBT+』(ダイヤモンド社)、映画化もされた『ミッドナイトスワン』(文春文庫)等々……。ここではLGBTQやジェンダーに関する16冊の本に、ジャンルをまたいで触れることができる。
「昨年のブックフェアでは、展示された本の貸出数が増え、多くの人に利用いただいた。夏休み中なので学生が多く訪れていて、気軽に手に取りやすい環境であることも大きい」と、西図書館の担当者は言う。
ブックフェアには船橋市内の中高生ボランティア11人と、JASHのユースメンバー5人の計16人が参加。セクシャリティーに関する基礎知識を学んだ上で各自が本を選び、紹介文や宣伝のポップも作成した。
JASHのユースメンバーで高校2年生の松岡由芽さんは、選書にあたり、「同世代の人に読んでほしい」として性暴力の問題を取材するライター・小川たまかさんの著書、『たまたま生まれてフィメール』(平凡社)を取り上げた。
「普段、友達との間で政治の話はほとんど出ない。都知事選のときに“あのポスター、ヤバいよね”って話題にしたぐらい。そういう政治に関心のない人が読んでも面白くて、こんな視点があるんだと思って、驚いた。フェミニズムとかビーガンとか、いろいろな角度からマイノリティーについて知ることもできた」
文部科学省は2016年に性的少数者に関する教職員向けの手引きを作成、研修動画の配信などを通じ、学校現場に向けて理解増進を促してきた。加えて23年6月にはLGBT理解増進法が施行。学校は児童生徒に対し、性の多様性に関する理解を深めるための教育や啓発、相談体制の整備に努めるよう規定された。
こうした状況を踏まえ、学校現場に今、何が求められているのか。
「トランスジェンダーの人に初めて会ったとき、勝手に怖い人だと思っていた自分の偏見に気付かされた。先生たちはLGBTQということでひとくくりにしないで、目の前にいる一人一人の子どもをしっかりと見てほしい」と、松岡さん。
一方、あみちえさんは、性的少数者に関する教員向け研修の講師を務めてきた経験から、次のように指摘する。
「セクシャリティーについては新しい知見が多いので、先生が一方的に教えるのではなく、子どもと一緒に学ぶスタンスの方がうまくいきやすいと思う。もし先生が性的少数者への偏見を持っていたとしても、下手に隠そうとしない方がいい。知識を得て分かった気になってしまうと、かえって危ない。あくまで生徒として向き合い、話を聞いて、困りごとがあればその都度対応する。そうする内に、自然に偏見が和らぐケースも少なくない」
LGBTQ当事者のリアルな思いを伝えるブックフェアは、10月1日から31日まで、船橋市東図書館でも開催される予定だ。
【訂正】「展示された本の貸出数が普段の3倍に増えた」とあったのは、正しくは「展示された本の貸出数が増え、多くの人に利用いただいた」の誤りでした。訂正します。