幼少期における親以外の信頼できる人たちとの関わり(ソーシャルキャピタル・社会関係資本)を持っていた人は、成人期の主観的幸福感(ウェルビーイング)が高い可能性がこのほど、東北大学大学院情報科学研究科の細田千尋准教授らの研究で示された。研究では、幼少期に親と関わった時間の長さは成人期のソーシャルキャピタルと関連がみられなかった一方、幼少期のソーシャルキャピタルと成人期のウェルビーイングには、有意な正の相関があることが分かった。
個人や集団の社会的ネットワーク、信頼関係、相互扶助の仕組みであるソーシャルキャピタルは、コミュニティーや社会全体の機能向上、個人の幸福感、健康、経済的成果に寄与することが知られているが、幼少期のソーシャルキャピタルが長期的にウェルビーイングに与える影響については、これまで十分に解明されていなかった。
研究グループでは、大学生292人を対象に、小学校低学年の時期の社会的交流や親と過ごした時間を振り返って質問紙に回答してもらった。その結果、幼少期に親と関わった時間の長さは、成人期のウェルビーイングとの関連がみられなかったが、幼少期のソーシャルキャピタルと成人期のウェルビーイングの中のポジティブ感情に、有意な正の相関があることが分かった。
また、幼少期に母親と関わった時間は、成人期の認知機能の高さと関連している可能性も示された。
細田准教授によると、このソーシャルキャピタルとなる親以外の信頼できる人には教師や保育士も含まれるという。細田准教授は、親以外で困ったときに助けてくれる、相談に乗ってくれる人がいるということが、子どものウェルビーイングや健全な心身の発達に重要な意味を持っていることの一端が今回の研究で示せたとし、「子どもの居場所づくりとして、現在、いろいろな取り組みが行われているが、学校や教師も、子どもにとっての一つの重要な居場所になるべきだ。学校における『居場所感』をつくるのは友達関係などだけではなく、学校や教師が子どもとどのような信頼関係をつくっているのか、ということがとても重要になってくると思っている。単に教える、教わるといった上下関係ではなく、信頼関係を醸成できる環境づくりが、子どもの将来的な幸福までも決める重要な要因だと考えている」と話している。
研究成果は7月25日付の心理学分野の専門誌『Frontiers in Psychology』にオンライン公開された。