豊富な科学教育プログラムを小中高に生かす OISTの重要な役割(鈴木崇弘)

豊富な科学教育プログラムを小中高に生かす OISTの重要な役割(鈴木崇弘)
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OISTを描いた新著

 筆者は最近、滞在研究した知見や経験を基に執筆した拙著『沖縄科学技術大学院大学(OIST)は東大を超えたのか―日本を「明治維新の呪縛」から解放し、新しい可能性を探求する―』を上梓した。本書は、日本の経済力や大学のランキングと影響力がこの30年間で急速に低下してきていること、そしてその原因が実は明治維新の時に作られた東大中心の高等教育などの画一的近代化モデルにあること、それに対してOISTは多様性や国際性に富み、大学などの新たなるモデルとして、現在の日本の閉塞(へいそく)・低迷状況をブレークスルーする方策を提示していることを描いたものだ。

 OISTは、世界的にも研究者の間で知られるようになってきている。他方、産学連携の創出を目指す、科学の基礎研究が中心で、学部のない博士課程のみの大学院大学であるので、2022年にノーベル賞受賞者がでて、メディアにも取り上げられるようになってはきたが、社会的にはいまだ十分には知られていない。その意味でも、ぜひ拙著を通じて、OISTを知っていただきたいと思う。しかしOISTには、実はもう一つ素晴らしい側面がある。それは開学以来、地道に活動してきたOISTの世界最先端の研究を行う教職員・学生による「科学教育プログラム」だ。

先駆的で素晴らしい科学教育プログラム

 OISTは科学教育プログラムを通じて、沖縄の小中高生などの若い世代に対して、科学技術への興味を引き出し、将来科学者を志す人材を発掘・育成している。また国際的な教育・研究環境を紹介したり、同学の外国籍人材が英語による企画を多く行ったりして、国際的な職業を目指す子どもの意欲向上に貢献する活動を積極的に実施してきている。

 具体的には、小中高大さらに一般人向けに、「科学教育アウトリーチ学校訪問」「OISTサイエンスフェスタ」「SCORE!」(国際教育と理科教育・起業家精神の育成を兼ねた体感型教育)、子ども向け科学ビデオのさまざまな企画や演目の提供などを行っている。

科学教育の成果・評価と今後の生かし方

 これらのプログラムは、若い世代の育成と成長に関わる息の長い試みであり、短期的成果は出にくい。しかしプログラム参加者の中には、刺激を受けて、現在は海外に留学し、将来OISTで研究したいという若者も出てきている 。

 そして、このプログラムは、筆者が現地で聞いた「OISTがあることで、沖縄の学校や地域で科学への関心が広まっている」という教育関係者の意見などにも表われているように、沖縄地域でもすでに高く評価され、受け入れられている。しかし「地域連携・科学教育」という枠組みの対応なので、活動が沖縄地域中心に限定されている。

 他方、筆者の知る限りでは日本、いや世界的にみても、質量ともにここまで豊富で、多様な内容の科学教育プログラムを実施する教育機関はないかと思う。またOISTには、開学以来の実施の知見・ノウハウや経験の蓄積がある。

 その意味で、OISTの科学教育の知見・経験を、日本の社会や教育機関・学校が生かして、日本のサイエンスやテクノロジーの人材育成と進展に役立てられるのではないかと思う。そこで、次のような提案をしたい。

 ▽小中高の授業などで活用できる研究動画のHP掲載(「科学教育」項目の検索の工夫も必要)▽OISTの科学教育プログラム(一部)を、オンラインやアーカイブ(要編集)で公開▽科学教育の知見・経験に基づく書籍・デジタル書籍(動画などとの連動を図り、デジタル教科書との連携なども必要)の発刊▽修学旅行で沖縄を訪問する児童生徒向けの科学教育プログラムなどの積極的な実施▽OISTの教職員や学生による日本全国サイエンスツアー(あくまで研究・教育が本務なので、メリットも提供するとともに負担を抑えることが重要)の実施。これは、特に外国籍背景の教職員・学生などにも日本を知ってもらう機会にもなる。

 これらの活動を通じて、沖縄以外の小中高校にも、OISTの国際性や高い教育・研究水準といった特徴や利点が、目に見える形で生かされることになろう。

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