「教育DXは時代に逆行している」「今のままではGIGAスクール構想は茶番でしかない」――。生成AIを自在に操り、かつ教育現場をよく知る立場から安藤昇さんはこう語る。インタビューの最終回では、教育DXやGIGAスクール構想の問題や課題、これからの学校や教育の在り方を聞いた。(全3回)
――安藤さんは高校や大学で教えているほか、学校教員向けのセミナーや講演での登壇、テレビ出演、動画配信と、多岐にわたって活動をされています。そうした立場から、現状の教育DXをどのように見ていますか。
「DX」はAIの下位互換なのに、どうして時代に逆行しているのかと思っています。「デジタルトランスフォーメーション」は生成AIのディープラーニングに比べたら、米粒にも満たないレベルのことなので、それをなぜやっているのかと。
それに現状の教育DXは、テストの結果などの断片的なデータを集めて成績をつけるなど、まさに成果主義です。途中の過程は全く無視しています。せっかくプロセス主義に変わってきたものを、あえて戻しているような側面もあります。
――教育DXで令和型の教育が進んだよう見えますが、実は逆なのですね。
生成AIが出る前には私もDXをやりましたが、今となっては完全に時代遅れです。それなのに、予算を増やして必死にやっている。ちょっと理解し難い感じですね。
例えば、ルーブリックにしても、人間が何かを評価するための基準を決めるとなると、どの段階になったら「できている」と判断するかなどを考えます。でも、AIだったら、学習した内容から自動で振り分けができるのです。非常にあいまいな情報を基に、AIが評価してくれるのです。それをあえて古くさい評価方法に戻すので不思議でなりません。
また、世の中には業務の効率化がDXだと勘違いをしている人もたくさんいるようです。そうではなくて、人間にはできないような大量のデータ分析をするのがDXなのです。
――時代に合った方向へ向かっていないようでは、今後大きな影響が出そうです。
AIを使えば、小学生や中学生でも大人顔負けの作業ができてしまう時代になってきています。先生方は知らないかもしれませんが、多くの子どもが裏ではAIを使って宿題をしたり、レポートを書いたりしている時代です。昔、LINEが広まり出したときにも禁止した学校がありましたが、裏ではほとんどの子どもが使っていました。
大学の学生たちも、今はほとんどがChatGPTなどの生成AIを使ってレポート課題をやっています。そう考えると「課題は正式にはこうやるべきもの」というのは意味を持たない時代で、学校が今後どうするかが問われてくるでしょうね。
うわべだけのGIGAスクール構想ではなく、時代の進化に合わせた環境が必要です。いずれは、生成AIを取り入れていくために、フィルタリングを全部外す時代が来ると思います。
――GIGAスクール構想については、現場での活用が十分に進んでいないという指摘もあります。
大きな問題は、インフラやシステムが構築できていないことです。私は佐野日本大学高校でICT教育推進を担当していた2012年度にタブレット端末を試験導入し、大手予備校と提携して授業コンテンツを約500講座入れて、生徒が好きな単元の講座を自由に見られるようにしました。
生徒は自分の理解度に合わせて、例えば90分の講義を倍速で視聴したり、苦手箇所をeトレで反復学習したりしました。その結果、成績が飛躍的に伸びました。それで、動画コンテンツを視聴できるインフラを構築すると決め、ICT専門の新校舎を建てました。タブレット端末は約1800台を導入して、使用に関する規制はほとんどかけませんでした。
その結果、学力が劇的に向上したので、15年ごろから教育イベントなどで成功事例として講演するようになりました。そしてその頃から、佐賀県のように県を挙げてICTの活用に取り組む自治体が増えていったのです。
ところが、そうやって積み上げられた知見が、全国的には全く反映されていません。今のGIGAスクール構想は、タブレット端末を大量投入しても、インフラやシステムにはお金をかけていません。例えるなら、土壌を豊かにしないまま種をまき続けているようなものです。
――8月2日に開催された「教育AIサミット2024」で登壇した際、他の登壇者から「安藤先生がやっているのは30年先のこと」と評価されていました。今後、日本の学校や教育は、どうなっていくべきと考えていますか。
生徒には、AI時代をどう生きるかを考えさせるようにしています。AIはすでに国立大学医学部の入試問題でも合格レベルの点数が取れます。だから、中学生だってAIを使えば学習は全部できるし、知識も得られます。
そうして覚えたり、知識を増やしたりする知識欲がなくなってきたら、次に人間に何が必要かというと、自分が好きな分野をとことん研ぎ澄ませていくことです。例えば、私はお金の管理は全くできないし興味もないですが、AIやプログラミングは大好きでやっていて楽しい。だから、まずは子どもが何かに好奇心を持てるようにすることが重要です。
知識を暗記することのようにAIに負ける分野に関してはあまり意味がないことなので、「自分が楽しいと思うことをずっと探究し続けなさい」と私はいつも生徒たちに言っています。
――AIの登場によって、学校が果たすべき役割が転換していくのですね。職業観の転換もよく話題に上がります。
これからの時代は、良い大学を出てホワイトカラーの職に就くというのは求められなくなります。知識・技能の習得という点で、人間の脳よりも頭がいいロボットはできてしまいますからね。逆に、人間の体と同じように動ける精巧なロボットはないから、体を使った仕事の需要は上がっていきます。だから生徒には、「今後は仕事の構造が逆転するから、それに備えて体を鍛えなさい」と言っています。
学校の仕組みも根本的に変えていく必要があります。最近はオンラインで通学できる中学校や高校が、進学実績を伸ばしているようです。今後、自分で学べる子は普通科の高校に行かず、自由に学べるシステムが整っている高校へ行くようになると思います。
国が視察するような学校は、端末の活用が進んでいるケースが多く、授業も良いところだけを見せることが少なくありません。私自身はいろいろな学校を見てきて「Wi-Fiが弱くて使えない」「フィルタリングをどうするか」「授業中の制限をどうかけるか」など、非常に低いレベルの状況があることを知っています。そうした中で、視察した学校の様子を国が発信しても、どこかうそくさいものにしか見えません。
ネット環境が悪い、自由にネットの閲覧できない、AIが使えないといった学校と、自由に何でも使える学校との格差は、今後大きく広がっていきます。やはり学問は自由であることが前提です。自由な学びが保障され、AIを駆使して好きなことを追究できる学校があれば、子どもたちはそこに行きたいと思います。いずれそういう時代になるのではないでしょうか。
【プロフィール】
安藤昇(あんどう・のぼる) 青山学院中等部講師、青山学院大学非常勤講師、スタディサプリ講師。BS日テレおよびネット番組Huluにて配信中のプログラミング教育番組の講師を務める。元佐野日本大学高校教諭、2019年に上京し現職。AI活用に関連した講演を多数実施している。自宅のスタジオにはプロ並みの配信機材を備え、「テクノロジーで教育を楽しくする!」をテーマに発信するYouTubeチャンネル「GIGA ch.」の登録者数は2万7000人に上る。前任校で顧問を務めた剣道部が全国優勝したほか、放送部が県大会14連覇、NHK杯全国大会準優勝2回の実績を残した。