東日本大震災と能登半島地震の経験を学校の防災教育などに生かそうと、「災害と教育」をテーマにしたシンポジウムが9月7日、仙台市で開かれた。今年1月の能登半島地震で被災した石川県輪島市から小川正教育長が参加し、発生直後の状況や現地での防災教育への取り組みを紹介した上で、「防災は、地域の主権者を育てる大事な取り組みだ」と述べ、中高生が地域防災の先頭に立つ役割を担えるように防災教育に取り組むべきだと強調した。
同シンポジウムは、宮城県を拠点に東日本大震災の伝承活動などに取り組む公益社団法人「3.11メモリアルネットワーク」が主催した。はじめに同法人の武田真一代表理事が「震災の年に生まれた子どもが高校生になる年月を経て、彼らに誰が何を伝えていくかという課題を考えるとき、先生たちの理解と熱意は欠かせない。災害教育の役割を見つめ直して、伝承現場と教育現場をつないでいきたい」と述べた。
続いて小川教育長が「学校と地域が一体となって取り組む防災の大切さ」と題して講演した。小川教育長は発生直後の対応について、道路が寸断されて市内の教員が勤務する学校に向かうのが困難な中、災害本部の床で寝泊まりしながら「まず自分の命を第一に、最寄りの避難所となっている学校に応援に向かい、タブレットで児童生徒の安否確認をするよう指示した」と振り返った。当初は教育を考える余裕はなかったものの、1月17日から希望する中学生を石川県白山市に集団避難させたことについて、「とにかく子どもたちを何とかしなければいけない。安全安心な衣食住と学びの場を提供しようと考えた」と当時の思いを語った。
小川教育長はこうした行動の前段として、東日本大震災の後、同県能登町で中学校長を務めていた際に特に防災教育に力を入れた経験も紹介。生徒がつくった家庭用ハザードマップの全世帯配布や学校主催の避難訓練など、学校を挙げて地域と共に防災に取り組んできたと話し、こうした活動が能登半島地震の際、現地での冷静な行動につながったと述べた。その上で小川教育長は「防災への取り組みは、地域の主権者を育てる大事な取り組み。持続可能な地域づくりのため、地域防災の先頭に立つ役割を地域の中学生や高校生が担うことが大事だ」と強調した。
このあと岩手県、宮城県、福島県から学校現場での防災教育の実践事例が報告された。この中で岩手県の釜石東中学校の佃拓生校長は、震災を経験した生徒たちは、震災の前に教わった防災教育の内容よりも主体的に考えて活動したことの方が強く記憶に残っていたことを紹介し、「中学生の探究的な活動や主体的な学びこそが、緊急時に生きて働く力になるのではないか。震災の経験のあるなしにかかわらず、教師自ら探究的に学んでほしいと学校で話している」と述べた。
また、宮城県の多賀城高校の津守大智教諭は、全国的にも珍しい同校の災害科学科の生徒たちが、津波被災地区で波高標識を設置しながら伝承活動を行う「津波伝承まち歩き」や、外部と連携して3Dモデルを使った津波シミュレーションづくりなどに取り組んでいることを紹介した。こうした活動を通して地域との顔の見える関係ができたことで、生徒たちは自己有用感を得ているとして、「防災への取り組みなどを通して、命と暮らしを守る人材づくりにつながっている」と同校の防災教育の成果を述べた。
さらに報告者全員が参加したパネルディスカッションでは、改めて防災教育の意義などについて意見が交わされた。この中で小川教育長は、能登半島地震の際に中高生が避難所で積極的に手伝っていた姿を紹介。「こうした未来を担う能動的に地域に関わる主権者を育てること」と改めて強調し、会場を訪れた大学生らに向けて、「防災を広い意味で捉え、持続可能な社会をつくる上で重要だという視点をもって欲しい」と呼び掛けた。