さいたま市が4月から開始した『放課後子ども居場所事業』で、委託先の運営事業者が職員の募集にあたり「スキマバイトアプリ」を利用していたことが、9月13日までに分かった。事業社は7月22日から8月9日まで同アプリに求人を掲載、29人を保育補助員に採用していた。また同じ事業者が6月上旬から8月末にかけて、奈良県香芝市の公立学童保育所の委託事業でも同アプリで職員を募り、のべ50人を採用していたことが市議会の9月定例議会で明らかになった。同アプリは空いた時間に働き、即日で報酬を得られる「スキマバイト」のマッチングアプリ。応募時に履歴書も面接も不要との触れ込みで近年、利用者が増えつつある。しかし、学童保育に詳しい専門家は「保育の質や安全への懸念がぬぐえない。採用に使うべきではない」と批判する。
さいたま市が一連の事態を把握したのは7月下旬。放課後児童支援課によれば、『放課後子ども居場所事業』のモデル校となっている市内4校のうち、1校の事業を委託しているシダックス大新東ヒューマンサービス(以下、シダックス社)が「スキマバイトアプリ」を利用し職員の募集を行っているとして、共産党市議から情報提供を受けたという。
「採用方法は事業者に一任している。ただ、スキマバイトのアプリで人材を募ることは想定していなかった」と同課の担当者は話す。
シダックス社が同アプリに求人を出したのは7月22日から8月9日までの19日間。同社広報部は「29人を採用し、常勤職員の補助員として勤務していた。採用者には研修を行い、保育に関する注意事項を指導した上で業務に従事してもらった」と説明。募集に同アプリを利用した理由について、「短期雇用の人員確保のため。業務期間が夏休みで終了したことから、現在は全て退職済み」と述べている。
一方、香芝市の委託事業では、同アプリで採用した50人のうち26人は短期雇用で業務を終え退社済み。現在は4人がシダックス社に入社し、学童保育の常勤職員として補助業務にあたっていると話す。
「いずれの事業もアプリによる募集に関しては、自治体の了承を得て行っている。募集から即採用ということはなく、勤務日当日に応募者本人と面談を行い、業務に従事できるか否かを確認し、従事できると判断した場合に限り採用している」(シダックス社の広報)
一連の事態を受け、さいたま市は採用に同アプリを使用する場合、安全性に配慮し有資格者に限定して募集を行うよう指示を出している。他方、香芝市では9月定例議会で三橋和史市長自らが「適切ではないと思う」と答弁し、採用方法を見直す考えを示した。
有資格者であれば、履歴書や面接不要をうたう同アプリでの採用に問題はないと言えるのか――。保育学研究所の村山祐一所長は「恒常的な人手不足の状態にある保育現場の中でも、学童はより深刻。アプリで頭数をそろえたくなる事情は、分からなくもない」としながらも、「子どもに関わる専門職としての知見や経験、職場への適性や人間性といったところまで、アプリ上で判断できるものだろうか」と疑問を投げ掛ける。
村山所長は「学童保育も含め、保育は人間関係が重要になる職場。子どもや保護者と対話し、職員同士がコミュニケーションを取りながら支え合い、保育の営みが成り立っている。そうした環境でうまくやっていけるのか、日々起こる問題やトラブルにどう対応してきたのか、単に資格があるというだけでは分からない」と指摘。
「とりわけさまざまな学年の子どもが集まる居場所事業では、子どもの学齢に応じた専門性の高い対応が求められる。そうした対応は単発、短時間の働き方では難しい。また職員の入れ替わりが激しい環境では、性犯罪や不適切保育への懸念はもちろん、子どもの情緒を不安定にさせる。待機児童問題を受け民間委託の居場所事業が進められているが、学齢の違う子どもたちの居場所は本来、児童館が担ってきた分野。児童館を増やすことも含めて、国は対応を考えるべきだ」と強調した。