学校の延長でない部活動地域移行 茨城・美浦フィッシングクラブ

学校の延長でない部活動地域移行 茨城・美浦フィッシングクラブ
村川さんの指導でリールを巻く体験会参加児童=撮影:水野拓昌
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 雄大な霞ケ浦を臨む茨城県美浦(みほ)村では中学校の部活動地域移行に向け、霞ケ浦で釣りを楽しむ美浦フィッシングクラブが注目を集めている。2026年度から休日の部活動を地域に移行させるため発足させた公認地域クラブの一つで、村の環境、地域資源を生かし、学校部活動の延長だけではない選択肢を示すとともに、関係者には「子どもたちが地域に誇りを持つきっかけになれば」という狙いもある。

霞ケ浦の釣り 身近に楽しめる美浦村

 琵琶湖に次いで、日本で2番目に広い湖である霞ケ浦。美浦フィッシングクラブはここで釣りを楽しむ活動がメインだ。9月14日、同クラブの体験会が開かれ、小学生2人が参加した。同クラブは中学生だけでなく小学生、高校生も入会対象としている。

 この日は青い空に浮かぶ白い雲が絵画のようにくっきりとして、日差しも強かった。湖面を勢いよく跳ねるボラの姿も頻繁に見られる。

 参加児童は時間をずらして1時間ずつ体験会に臨んだ。救命胴衣を装着し、同クラブの村川勇介代表が操縦するボートに乗り込む。定員は3人。ボートは湖上を時速120キロで滑走し、アメリカナマズ(チャネルキャットフィッシュ)が潜むポイントでエンジンを止めた。村川代表が餌を取り付け、児童に釣竿の操作などを指導する。

 船上から釣竿をゆっくりと左右に動かし、リールで釣り糸を巻きながら感覚を確かめる。小6男児は、臭いにつられたナマズが餌をついばむような微妙な動きが分かったという。釣竿を持つ手にピクピクと動きが伝わってきたのだ。パクリと食いつくまでにはいかず、釣果を得られなかったが、「楽しい」と笑顔だった。

 村川代表は「残念だが、これも釣りだ」とボートを引き返す。水温が上がり、ナマズの動きは鈍かったようだ。

 その前に参加した小1男児は時間ぎりぎりで大きなナマズを釣り上げた。ボートに父親が同乗し、母親は岸辺から様子をうかがった。「ボートに乗ったことも貴重な体験。楽しんだと思う。環境や生き物の大切さも学べるとも聞き、参加させた」と関心を示した。

地域人材の活用 プロの釣り師が指導

美浦フィッシングクラブの説明をする村川さん=撮影:水野拓昌
美浦フィッシングクラブの説明をする村川さん=撮影:水野拓昌

 美浦フィッシングクラブの村川代表はプロの釣り師。サラリーマンの時は20年も東京から毎週末、霞ケ浦に通い、その後、地域おこし協力隊の活動を通して村に移住した。現在はボートマリーナや湖畔近くの美浦村週末カフェを経営。霞ケ浦の魅力を知り尽くす地域の人材活用の観点から部活動地域移行に協力することになった。週末カフェは同クラブの活動拠点でもある。

 クラブ運営には村川代表のほか、数人の釣り仲間が講師として協力。10月から月1回、土曜日に活動していくが、まずは安全管理も含めてマンツーマンに近い形で指導するため、入会は5人前後に限定する予定だ。8月から開催している体験会には計10人が参加。既に小中学生4人が入会を希望している。

 水辺での活動が中心となるので、その危険性も伝え、一方で非日常性の楽しさも伝えたいという。開放的な週末カフェでの講義は保護者も見学可能。村川代表は「子どもを対象に釣りを教えるクラブ活動は前例がないのでマニュアルもカリキュラムもないが、自分が学んできたことを伝えられたらと思う。座学と実技をバランスよく実践したい」と意気込む。

 スロープ周辺や「ホソ」と呼ばれる水路など水辺での釣りやボートを使った釣り、漁業体験などを計画し、魚種の豊富な霞ケ浦でフナ、テナガエビ、ナマズなどから「疑似餌を使ってブラックバスを狙うルアーフィッシングも挑戦させたい」という。釣った魚はその場で逃がすキャッチ・アンド・リリースが基本。一方で護岸清掃など環境や自然、生き物の大切さを教える活動も取り入れる。

 「美浦村は釣り人を優しく歓迎してくれる地域。釣り人同士や村内外の人たちの交流にもつながる。また、村内の人にも霞ケ浦の良さ、釣りの楽しさを再認識してほしい」

 村川代表は幅広い年代が交流し、仲間となっていくクラブを目指している。

霞ケ浦の湖上を滑走するボート=撮影:水野拓昌
霞ケ浦の湖上を滑走するボート=撮影:水野拓昌

学校部活動にはないテーマに取り組む

 美浦村では公認地域クラブとして、硬式野球やバレーボール、吹奏楽、ボランティアなど11のクラブが発足した。既に活動を始めたクラブもあれば、体験会を進めて入会希望者を募っている段階のクラブもある。公認地域クラブの活動は24~25年度、国の委託事業の制度を活用した実証事業。26年度以降の休日の部活動地域移行に向け、今後、活動が本格化していく。

 中学生を対象にしたクラブもあるが、小学生や高校生、社会人にも門戸を開くクラブもある。学校が担ってきた部活動を地域団体に担い、学校教育から地域社会での活動に移行。勝敗にこだわるスポーツ競技中心の活動から趣味を楽しむ活動まで、選択肢として提示できるという。村教委生涯学習課の石川大志課長も「自分たちは子どもの頃、友達とよく釣りをしたが、今の子どもはほとんどやらない」と指摘。子どもたちに地域の魅力を再認識してもらい、地元に愛着を持ってもらいたいという狙いもある。

 美浦村は茨城県南部に位置し、住民1万4228人(24年4月現在)。村としては全国屈指の人口を誇るが、14歳以下の子どもの割合は8.5%。25年度には村内の小学校3校が1校に統合される。少子高齢化の課題は全国のほかの地域と変わらない。部活動地域移行でも多くの競技種目をそろえるのは難しく、むしろ地域資源や地域で活躍する人材を生かした活動を重視する方向性が打ち出されている。

 美浦フィッシングクラブ体験会は中学生よりも小学生の参加が多かったという。石川課長は「中学生は既存の部活動があるためか応募は少なかった。だが、小学生の年代から釣りの楽しさを分かっていれば、既存の部活動とは違った地域クラブに関心を向けるかもしれない。粘り強く働き掛けていく」と強調する。地元に愛着を持ってもらうチャンスにもなるとも考えている。

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