将来の高等教育の目指すべき姿について、中教審の「高等教育の在り方に関する特別部会」が示した「中間まとめ」を巡り、同部会で関係団体や識者から意見を聞くヒアリングが9月27日、文部科学省で行われた。この中で私立大学側からは、特に地方では「基盤的な社会資本」として地域振興などに貢献しているとして、補助金の拡充など公的支援の強化を求める声が相次いだ。
中間まとめは、急速な少子化が進む中で2040年以降の社会を見据えた高等教育が目指すべき姿などを示した内容で、今後の高等教育政策の方向性として、教育研究の質のさらなる高度化や、学生数不足による質の低下を避けるための規模の適正化、地域における質の高い高等教育へのアクセス確保の3つを柱とし、具体的な支援方策を示している。
これを受けて同日、関係4団体と識者からヒアリングが行われた。このうち識者として出席した東北大学の島一則教授は「設置主体別の大学の役割に基づく支援方策」と題して意見を述べた。この中で島教授は大学の役割の本丸は「研究」だが、論文数で世界の順位が下がっている現状に触れて、背景として収入レベルを維持するために附属病院収入や外部資金獲得のため教職員の新たな仕事が増えて、研究機能の向上につながらないメカニズムとなっていると指摘した。
こうした中で大学の基盤が劣化しているとして、運営費交付金の再基盤化や安定化に向けた見直しが必要と述べた。また、地方の私立大学についてもプラスの投資的効果がみられるとの試算を示し、大学進学機会の地域間の平等に関わる私学助成金の交付スキームの導入などを提言した。
日本私立大学協会の小原芳明会長(玉川大学理事長・学園長)は、「地方での高等教育へのアクセス」を重点に意見を述べた。地方の私立大学は地域の文化や医療福祉、産業振興の拠点として「基盤的な社会資本」となっていると強調、現在の規制改革による収容定員管理を続ければ人口減少に拍車をかけ、若者の流出を助長させかねないと指摘した。
その上で定員管理政策の転換に向けて、定員未充足大学が収容定員を維持したままで一時的に削減する定員数を文科省に届けられる制度の導入などを求めたほか、修学支援新制度で「直近3年度全ての収容定員充足率が8割未満」の大学を対象外としていることは、「全く学生には責任のないことだ」として撤廃すべきとした。さらに「国による私立大学等経常費補助金の拡充に加え、地方自治体でも助成金の積極的な拠出を求めたい」と強調した。
日本私立大学連盟の曄道佳明副会長(上智大学学長)は「学生の約8割を担う私立大学の質の向上は、国民全体の能力の総力に関わる」として、同連盟としても検討を進めていることに触れた上で、「質の高度化」「規模の適正化」「アクセス確保」について意見を述べた。このうち規模については、「定員割れなど一律の基準で縮小することは避けるべきであり、学部のみでなく大学院教育を含めて考える必要がある」と指摘した。また、アクセスについて、地方創生に関しては「産業創出や企業誘致などで企業と大学間の相乗効果を生み出すことが重要であり、文科省だけでなく経産省や地方自治体などとさらに協力体制を組むべきだ」と提言した。
その上で、「大学を国公私立の設置形態ではなく、各大学を機能別に捉えていく必要がある」と強調するとともに、私立大学等経常費補助の圧縮率撤廃など公財政支援の拡大を求めた。