全国の自治体において初めて民間の転職サイトを活用して教育長を公募していた東京都の離島・利島村でこのほど、私立中高一貫校や奈良県生駒市教育委員会で教育改革を進めてきた経験のある三室哲哉氏を次期教育長として採用したことが発表された。三室氏は10月1日から教育長に就任した。今回の公募には463人もの応募があるなど、大きな注目を集めた。三室教育長と弟子丸知樹前教育長に、民間転職サイトを用いた教育長公募のメリットや気付き、今後の利島村の教育改革について聞いた。
━━全国の自治体で初めて民間の転職サイトを活用しての教育長の公募でした。
弟子丸 結果的に463人という応募がありました。これは予想をはるかに超える数で、本当にありがたく思っています。今回の公募は、教育長の仕事だけでなく、利島村自体にも興味を持ってもらうきっかけになったのではないかと感じています。
また、年齢も20代から70代まで、教員や教育行政の経験がある方から教育関連の民間企業やNPO法人の方、そしてこれまで教育や行政に関わったことのない方まで、さまざまな経歴を持つ方から応募がありました。これだけ多様な方が興味関心を持ってくれたのは、民間転職サイト(ビズリーチ)を活用したことが大きかったと思っています。
━━三室教育長は最初にこの公募を見たときに、どう感じましたか?
三室 私は私立中高一貫校の教員を25年間務めた後、2年前に奈良県生駒市教委の教育改革担当に転職しました。教育行政職に就いたものの、「教育長」という職は自分には程遠い存在だと思っていたので、まず「教育長が公募される」ということに驚きました。
しかし、今回の公募の背景や、求められている人材、利島村が抱えている課題などを知るうちに、非常に興味が湧くとともに、これまでの自分の経験を生かせるのではないかと感じました。生駒市教委での仕事にも大きなやりがいを感じていたので、葛藤はありましたが、挑戦してみたい気持ちが強くなり応募に至りました。
また、生駒市が抱えている教育課題と利島村の抱えている教育課題が全く違っていたことも興味深かったです。利島村は子どもの数は30人前後で、それに対して教員の数は多く、全国の学校現場と比較すると、そうした面ではとても恵まれた環境にあります。この規模だからこそ、この環境だからこそ、自分が実現したいと思っている教育も実現できるのではないかと感じたことも、応募の大きな理由です。
━━今後も特に小規模自治体にとって、教育長探しは懸案事項だと思います。今回の公募で何か見えてきたヒントはありますか。
弟子丸 自治体によって置かれている状況はさまざまなので、一つの正解はないと思うのですが、これだけ多様な方から応募があったという今回の利島村のチャレンジが、他の自治体にとっても「こんなやり方もあるんだ」というヒントになったらうれしいですね。
また、今回の公募に向けては、私と村山将人村長で「この地域や子どもたちの未来がどう在るべきか」という議論をまずした上で、「教育行政の責任者としてどんな人材が必要なのか」を考え、進めていきました。ただ単に民間の転職サイトで募集すればいいのではなく、その自治体の未来を考えた上で進めていくことが重要だと感じています。
小規模自治体は「教育を考えること」と「地域をつくっていくこと」、この両面が極めて近い関係にあり、教育委員会の工夫次第で地域のこどもたちや、その地域の未来自体が大きく変わっていきます。小規模自治体の教育長は責任も大きいですが、同時に大きなやりがいを感じられる仕事だと思います。
━━10月1日から三室新教育長体制がスタートしました。今後、利島村でどのようなことに取り組んでいきたいですか?
三室 利島村では新たな教育大綱「“人づくりが島づくり”大綱」が策定され、その実行フェーズにあります。まずはこれまで弟子丸前教育長が進めてきたことを、しっかりと引き継いでいきたいと思います。
また、何よりも子どもたちが安心して学校に通える環境が大事だと思っています。ハード面だけでなく、ソフト面でも子どもたちにとって最高の教育環境、学習環境を提供し、子どもたちが「毎日学校が楽しい」、教員たちも「毎日仕事が楽しい」と思えるような環境整備に、さらに力を入れていきたいです。
その環境をつくった上で、子どもたちや教員、保護者、地域の方たちと対話しながら、日本の一番先頭を走っているような教育を創っていきます。教育を学校で閉じるのではなく、社会に開いていくことがこれからの教育の在り方だと思っているので、そのモデルケースとなるような教育を、この利島で目指していきたいと思っています。