豊かな生き方、キーワードは「余白」 元教員らトークイベント

豊かな生き方、キーワードは「余白」 元教員らトークイベント
「私らしい生き方って?」をテーマにトークセッションをした登壇者=撮影:松井聡美
【協賛企画】
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 ワクワクすることに身を委ねてみては――。奈良県三宅町立三宅幼児園園長の徳留宏紀さんと、神戸市のオルタナティブスクール「ラーンネット・あーる」代表の齊藤勇海さん、同スクールディレクターの似内成美さん、私立小中学校のInstagramの運用やコンサルを行っているゆきこ先生がこのほど、東京都内の会場で「豊かな生き方・在り方を考える」をテーマに、トークイベントを開催した。4人とも、公立学校の教員から新たなキャリアを切り開いた経歴がある。クロストークでは、「余白」が話題に上り、日々の余白に目を向けることや、立ち止まって考える時間の大切さなどが挙がった。

似内さん「人との出会いで世界が広がっていった」

 大阪府内の公立中学校で11年間、美術科の教員をしていた似内さんは、今年4月から「ラーンネット・あーる」でスクールディレクターを務めている。

 似内さんは2018年に出産し、子どもが2歳の時に保育所に入園したが「みんなと同じことができない」と言われ続けたそうだ。「発達がゆっくりの息子は、集団生活ではできないところが目立ってしまう。みんなと同じことができないだけで、これだけ社会からは厳しい目を向けられるのかと実感した」と振り返る。

 自身の子育てをきっかけに、教員としての意識も変化した。「できる・できないを比べるものではないし、一人一人それぞれ違うのだと、本当に思えるようになった」と話す。

 教員10年目の時に校内の人権教育推進担当者となり、非認知能力についての校内研修を検討する中で徳留さんや齊藤さんに出会った。「2人と出会って関わる中で、自分自身の豊かな生き方、在り方とは何なのかを考えるようになった」という。そうしたタイミングで現職の募集を知り、悩んだ末に教員を退職してオルタナティブスクールの世界へと飛び込んだ。

 現在の日々を「トラブルもあるし、大変なこともあるけれども、子どもも大人も余白のある中で『自分がどうしたいか』を大切にできている」と話した似内さん。「私は人との出会いで世界が広がっていった。自分の学びのためにも、息子の教育のためにも、公教育を飛び出してみたいと思った」と笑顔を見せた。

ゆきこ先生「目標を定めることをやめた」

 続いて、教育新聞でも「先生が幸せに働くためにできること」を連載していたゆきこ先生が、現在の働き方について話した。もともと福岡市の公立小学校の教員や横浜市の公立小学校の非常勤講師をしていたが、現在は私立小中学校のインスタグラムの運用やコンサルティングをしたり、小学校でのインスタグラム発信授業を担当したりするなどの活動をしている。

 先日、ある小学校の校長から「ゆきこさんはいつも忙しそうだけれども、充実していそうだね」と言われた。そこから「なぜ今のような働き方ができるようになったのか」を考えたところ、「目標を定めることをやめたから」という結論に行きついたという。

 「これまで私は何か目標を決めて、その目標を達成するための要素を逆算して設定し、積み上げていっていた。しかし、今は最終的な大きな目標ややりたいことはあるけれども、そこに到達するまでの行き方は決めていない」とゆきこ先生。

 「逆算してプロセスを考えていたら『これは無駄』だと排除していたようなことでも、自分がワクワクすることならば飛び込むようにした。そうして気付いたら、自分がやりたいことができていたり、つながりたい人とつながれたりしている」と話し、「ワクワクに身を委ねてみてもいいのではないか」と参加者に語り掛けた。

子どもたちと過ごした「余白のなさ」もまた、かけがえのないもの

参加者らも豊かな生き方や在り方について対話した=撮影:松井聡美
参加者らも豊かな生き方や在り方について対話した=撮影:松井聡美

 後半の「私らしい生き方って?」をテーマに行われた4人のクロストークでは、「余白」が話題に上った。ゆきこ先生は「教員を辞めて余白はできたが、善しあしはあると思う。教員として子どもたちと一緒に過ごしていた時は、毎日違うことが起きていた。余白はなかったけれども、あの余白のなさはかけがえのないものだったのだなとも感じている」と語った。

 徳留さんは昨年1年間、日本を飛び出しフィンランドで生活したことに触れ、「フィンランドでは、余白があるからこそ自分と向き合えた。一方、帰国してからの園長としての日々は、余白はほとんどないけれどもとても充実している。つまり、どちらがいいということではなくて、余白に目を向けてみることが重要なのではないか」と話した。

 また、似内さんは「ラーンネット・あーる」でゆとりのあるカリキュラムが組まれていることに触れ、「例えば、アート活動は90分で設定されているが、それだけあれば何か一つの素材をとことん楽しむことができる。余白があることで、子どもたちの自然な時間の流れが見られる」と話した。齊藤さんは「今は子どもも大人も『何でもない時間』がほとんどない。詰め込み、スピードアップすることが求められがちだが、立ち止まって考えるような時間も大切ではないか」と述べた。

 

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