デジタル教科書の活用を進める上での課題や制度上の位置付けなどを検討している、中教審のデジタル学習基盤特別委員会に設けられたワーキンググループ(WG)は10月15日、第2回会合を開き、デジタル教科書を活用する教員らからのヒアリングを実施した。ヒアリングを踏まえた自由討議では、国から学習者用デジタル教科書が無償提供されている英語、算数・数学に加えて、授業時数の多い国語もその対象とすべきだとする意見や、現行制度では、学習者用デジタル教科書は紙の教科書の内容を全てそのままデジタルに記録した教材であるとされ、動画や音声、アニメーションなどのコンテンツは補助教材と整理されているデジタル教科書の範囲について、改めて議論すべきだとする意見が出た。
ヒアリングでは、デジタル教科書を実際に授業で活用している教員や研究者が、具体的な実践を報告した。
山梨県山梨市立加納岩小学校の藤木真里佳教諭は、英語の授業で学習者用デジタル教科書を使うようになり、授業や家庭学習の中で、デジタル教科書による個別学習の活動が入れられるようになり、授業展開が変化したと強調。「授業時の語彙(ごい)練習は学習者用デジタル教科書が入る前まではALTを中心に時間をかけて何度もリピート練習をしたり、ゲームのような形で習得をしたりしていたが、学習者用デジタル教科書を使用するようになってから授業における語彙習得は全体で特に弱い語彙、キーとなりそうな語彙の習得のみとして、やりとりに時間をかけるようになった」と話した。
大阪府枚方市立東香里中学校の廣瀬翔太教諭は、数学での学習者用デジタル教科書について、生徒のノートにまとめる時間の短縮につながることや、問題を自分のペースで取り組めるようになったことだけでなく、特に図形と相似の学習で中点連結定理をグラフィックツールを使ってシミュレーションできる機能を紹介。「『長方形、ひし形、正方形になるには、中点を結ぶ対角線がどのようになっているときか』と投げ掛け、生徒たちはグラフィックツールを使いながら、こういう条件があればそうなるのではないかと考え、気付いたことを証明している。グラフィックツールを活用すると、そうした条件から見つけることができるのが、今までとの大きな違いだ」と話した。
放送大学の佐藤幸江客員教授は、国語での学習者用デジタル教科書の活用事例を振り返り、紙の教科書と違って何度も書き込みができることや、ルビ振り機能などで学習障害や日本語を母語としない児童生徒の学習支援になることを利点に挙げた。その上で「デジタル教科書とデジタル教材を連携して活用することで、個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に寄与するということが多くの実践から明らかになっている。国語は授業時数の最も多い教科でもあるので、(学習者用デジタル教科書の)無償配布の早期実現が期待される」と提案した。
この提案に関して、後半の自由討議で中川一史主査代理(放送大学学園次世代教育研究開発センター長、放送大学教授)は「デジタル教科書は使ったら使っただけ効果を実感できる。そうなると現在、全校に英語のデジタル教科書が、約半数の学校に算数・数学のデジタル教科書が入っているが、算数・数学のデジタル教科書を100%の学校に導入するとともに、国語のデジタル教科書もできるだけ早く導入すべきだ」と指摘。松谷茂委員(文化杉並学園理事長、 日本私立中学高等学校連合会常任理事)も「紙の教科書とデジタル教科書を併用するのは大人の考え方だ。私は(デジタル教科書で)できるような教科は、両方ではなくてデジタル教科書を(使うようにすべきだと思う)。英語や算数・数学、国語をデジタル教科書にしていけば、日本の教員は積極的に研究して、どううまく活用していくかといったことが出てくるのではないか」と述べた。
また、岡本章宏委員(教科書協会デジタル化専門委員会委員長、教育出版DX事業局局次長)はヒアリングでの活用事例について、「それぞれの教科の特性に応じたデジタル教科書の活用をしていたように感じた半面、デジタル教科書のメリットとして動画の解説資料などを挙げていたが、そこは現在の制度ではデジタル教材として位置付けられているものが含まれている。今後デジタル教科書の良さをどう生かすかを制度的に考える際には、どういったところまでを教科書の範囲として位置付けるのかという議論が必要になるのではないか」と問題提起した。
これについて堀田龍也主査(東京学芸大学教職大学院教授)は「デジタルにしたときの教科書はどこまでなのかということについて、しっかりと私たちは議論しなければいけない。これは言うほど簡単ではなく、法令の関係もあり、文部科学省として決めなければいけないこともたくさんあろうかと思う。デジタルになり、個別最適な学びや協働的な学びを一体的に推進していく時代において、次の教育課程を考えていくときの前提となる学習環境として、私たちはこれをどう考えるか、今までの制度の上でいいのか、というのは一つの大きな課題だ」との認識を示した。