スポーツにおけるジェンダーギャップの解消に向けて、スポーツ用品メーカーのナイキと、スポーツを通じた社会貢献活動を行っているローレウス・スポーツ・フォー・グッド財団(ローレウス財団)は10月18日、女子がスポーツに参加しやすくしていく環境づくりについて考えるイベントを都内で開いた。野球の読売ジャイアンツ(女子)で活躍する田中美羽選手や、前バスケットボール女子日本代表ヘッドコーチの恩塚亨さんらがパネルディスカッションに登壇し、日本の女子スポーツを巡る課題を話し合ったほか、教員志望の女子学生もスピーチした。
主催するナイキとローレウス財団は、テニスの大坂なおみ選手と連携し、女子がスポーツや遊びに積極的に参加できる支援をする「プレー・アカデミーwith大坂なおみ」を、大坂選手にゆかりのある日本、米国、ハイチで展開するなど、この問題の解決に取り組んでいる。イベントではまず、当事者を代表して桃山学院教育大学4年生の世古汐音さんと、中学2年生で、視覚障害のある中山杏珠さんがスピーチした。
教員を志望している世古さんは、子どもの頃からバレーボールを始め、現在は部活動指導員として中学校で指導も行っている。世古さんは「指導員を始めて学んだことの一つだが、子どもたちはしっかりとした考えを持っている。私は今までやらされる練習が多く、考える機会があまりなかった。しかし、やらされる練習よりも自分たちが必要としている練習メニューに取り組んだ方が、練習に活気も生まれるし、やる気にもつながるのではないか。子どもたち一人一人が考えをしっかり持っているからこそ、試合前には特に、できるだけ子どもたちの意見を聞きながら、メニューを考えるようにしている」と、子どもの意見を尊重する指導の重要性を強調した。
1歳のときの病気の影響で弱視になり、10歳で全盲となった中山さんは、今ではクライミングと柔道に熱中している。中山さんは「私はこの2つのスポーツに出合えたことで自信がついて、諦めずに前向きにチャレンジできるようになった。これからもスポーツを楽しんで、新しい自分と出会い、もっともっと成長していきたい」と語った。
その後に行われたパネルディスカッションでは、スポーツにおけるジェンダーの問題に詳しい中京大学スポーツ科学部の來田享子教授が、女子のスポーツ環境の課題を解説。來田教授は「スポーツ界を見てみると女子のロールモデルが少ない。地域の身近なところにリーダーがいない。さらに深刻なのは、上手になるほど女性のコーチとの出会いが減ってしまうことだ。頑張って競技を続けていくと、自分のモデルとなる、憧れの人との出会いが少なくなってしまう」と話し、ロールモデルとなる女子のスポーツ選手や女性指導者が限られている現状があることが課題だとした。
恩塚さんは「コーチが選手に『言われたことをやれ』と言うと、今度は選手がチームの中で『言われたことをやろうよ』と言ったり、できていない選手に『やって』と言ったりするようになる。そういう自分らしさとはかけ離れた状況が結構あると思っている」と指摘。「背景にあるのはコーチの考え方や価値観だと思うが、どうしても成長するためにやらせなければいけない、勝つために必要なことというのはある。やらなければいけないことを義務としてやらせていくのではなく、やらなければいけないことをやりたくなるように、どうやって導いていけるかだ」と、指導者の意識改革を訴えた。
田中選手は「スポーツや選手と触れ合う機会をたくさんつくりたい。野球教室を開いたところ、それをきっかけに『キャッチボールをしたいからグローブを買ってくれないか親に相談してみる』と言ってくれる子もたくさんいて、一緒の環境で直接会うのが大事だと感じたので、そういう場を増やしたい」と、女子がスポーツや女子選手に直接触れる機会を増やしていく必要性を呼び掛けた。
イベントに合わせ、ローレウス財団では、女子が参加しやすいスポーツの環境づくりのポイントなどをまとめた指導者向けのガイドブックを制作。財団ホームページで公表している。