生成AIの活用で、生徒の思考力は深まっている━━。千葉県船橋市立飯山満中学校(野上浩資校長、生徒318人)で10月21日、「生成AIと探究」をテーマとした今年度2回目の公開授業研究会が行われ、全国から100人以上の教育関係者が参加した。午前中に全学年、全教科で生成AIを活用した授業が公開された後、午後は同校の研究主任・教務主任が約1年間、生成AIを活用して見えてきた効果のある活用場面や、生徒の変容などについて報告した。
同校では、2023年10月に文部科学省の生成AIパイロット校の指定を受けたことをきっかけに、生成AIの活用がスタート。研究主任の大浜美樹教諭は「私は美術科の教員なので、『美術で生成AIをどうやって使うの?』と思ったのが最初だった。それでも興味を持つと楽しくなっていった。今でもたいしたプロンプトはつくれないけれども、授業で使うことで子どもたちの思考力が深まっていくことを感じている。そして自分の授業デザインが整理され、明確になっていくことも、大きなメリットだった」と振り返った。
全教員で活用を進めてきたことで、生成AIは探究学習や自由進度学習との相性が良いということが分かってきた。「生成AIは生徒の創造力を広げ、多様な考え方を理解する力を育む重要なツールだということが見えてきている」と語った。
また、いわゆる「セカンドGIGA」への移行が始まっている今、教務主任の内藤亮生教諭は「教師本来の役割の深化が求められている」と指摘。同校では学習者中心の学びへの転換を図っているという。
生成AIの活用などにより、具体的には、学習ペースの複線化や教材の多様化、学習形態の選択化などの「指導の個別化」と、個別の目標設定や適切な道具立て、フィードバックの充実など「学習の個性化」を進めており、それによって生徒たちの学力面でも成果が表れてきている。
例えば単元テストなどでも、特に成績下位層の伸びが顕著だという。また、生徒たちの情報収集の量が圧倒的に増えたことで、レポートなどの成果物の質も向上。「そうしたことが生徒の自信につながり、学力的な成果にもつながってきている」と話す。さらに、内藤教諭は自身の変化について「これまでは『(教師が)教えたからできた』だったのが、『(生徒が)学んだからできた』に変わってきている」と強調した。
同校の教員に生成AIについてアンケートを行ったところ、「生徒の活用に関しては、情報整理や要約、個別支援など、考えを深めたり、発展させたりする場面において効果を感じている」と分析。また、教員自身が効果を感じるのは、自己評価やフィードバック、学習の進捗(しんちょく)の把握など、生徒たちが自律的に学びに取り組む姿勢の向上における場面だと報告した。
内藤教諭は「AIに頼り過ぎていると感じる場面もあり、批判的思考やファクトチェックについても、まだまだこれからだ。誤った情報で学習が進んでしまわないよう、情報の取捨選択ができるようになる必要もある」と課題を話し、「今後は生徒の変容の分析や、授業の効果検証、ツールを使い倒す発想の育成に取り組んでいきたい」と展望を述べた。
その後は同校の授業を視察した中高生を中心に情報プログラミング学習サービスやPBL学習のサポートを行うライフイズテックの取締役兼CEAIO(最高AI教育責任者)の讃井康智氏と、文科省の学校DX戦略アドバイザーでスクールエージェント代表取締役の田中善将氏が講評した。
讃井氏は同校の授業の印象について「決まった知識を学ぶだけでなく、例えば生成AIを活用して、自分の作った英文をより良くするためのフィードバックをもらうなど、既有知識ではない、深化した知識を生徒たちが持てていた。昨日の自分より今日の自分が深い問題を選んだという変化を、生徒自身が感じやすいような授業設計がされていた」と評価した。
1年前から同校に伴走している田中氏は、同校での生成AIの活用について「授業の中で、ここだったら使えるのではないかという、従来教育強化型の『まず使ってみよう』というフェーズから、子どもたちの能力別・興味関心別の軸で活用する学習支援強化型・メタ認知創発型の『使う場面を選べる』というフェーズに進んでいる」と述べた。
また、今後、各校で生成AIの活用が進んでいくと考えられるが、田中氏はすでに生成AIが博士課程を持っている専門家の知能レベルを越えているデータを示しながら、これからの生成AIの発展を加味した授業の在り方について「思考の連鎖の設計が必要になってくる」と指摘。
「生成AIは人間の脳の思考プロセスの仕組みを全てまねしながら発展し、それ以上のクオリティーにしてきている。これからは、教員が子どもたちの深い理解を生むための思考の連鎖のストーリーをどう設計するか、どう仕掛けられているかで、内容習得に大きな差が出るだろう」と述べた。
讃井氏はこれから求められる教員の専門性について、「今まで以上に学習デザインの力が大事になってくる」と指摘。「結局は、いかに子どもたちに深い学びをつくっていけるかが重要だ。また、生成AIをうまく活用することで、子どもたちは『生成AIと一緒に自分で学び、昨日よりも深い学びができた』という実感を持つことができる。教員の学習デザイン力と生成AIの力で、子どもたちの自ら学ぶ楽しさや、学習者のエージェンシー、成長感をつくっていけたらいいのではないか」と話した。