学校外での多彩な活動を続けてきた関口あさか教諭。実は育児中でもあり、「自分の子から教えてもらうことが全て仕事にもつながってきた」と話す。インタビューの第2回では、教員として育児と仕事を両立することができた要因について聞くと同時に、教員が学校外で活動する上で今後求められることを聞いた。(全3回)
――今日は出前授業の講師を務められました。学校の内外での活動に加えて育児もされているわけですが、どのように時間をやりくりしているのでしょうか。
今日も夫が出前授業に来てくれていて、子どもの面倒を見てくれています。夫の協力や理解が得られている部分が大きいですね。子どもが幼稚園に行くための準備やさまざまな家事も、2人で分担しています。実は昨日、少し体調を崩してしまったのですが、「夫がなんとかしてくれる」という安心感があって、今日の出前授業も無事にできました。
ただ、やっぱり子どもができてから、自分の時間が十分に取れない悩みはあります。特にうちの子は医師からショートスリーパーと言われるくらい睡眠時間が短く、赤ん坊の頃から日中は昼寝もせずにずっと泣いていて、夜になってやっと6時間だけまとめて寝てくれるという状況だったのです。昼寝を5分でもすると就寝が夜11〜12時になることも…。
今は夜の9時には自分の部屋に入って、たいていは自分一人で寝られるのですが、私が寝かしつけないと駄目なときもあって、その場合は私の方が先に寝てしまうことも珍しくありません。気が付くと朝になっていて、夜のうちにやろうと思っていたことが何もできていない、などということが何回かありました。
――教員が育休から復帰した後に、仕事と育児の両立で悩むという話をよく聞くのですが、そんな大変な時期をどう乗り切ってきたのでしょうか。自身のエネルギーでこなしてきた部分が大きいようにも感じますが。
そうだと思います。子どもを寝かしつけた後に2時間でも自分の時間ができたら、その時間でやれることを全部やって、それから死んだように寝て…という毎日です。
勤務時間中も、休憩が取れる日もあれば、休憩時間に会議が入ってきて休憩できない日もあり、気が付けばもうお迎えという感じです。子どもをいつも一番に登園させて、最後に迎えに行くような日々が続いています。
でも、自分の時間も大事にしたいので、休日は時々、夫と交代しながら子どもの面倒を見て、カフェに行ってゆっくり絵を描いたり、原稿を執筆したりしています。
――育休中はどのように過ごされたのでしょうか。
「こんなに今まで仕事まっしぐらで生きてきたから、生まれた子との時間を少しでも長くしたい」という気持ちもあって、育休は3年間取りました。
その3年間は、自己研鑽(さん)の期間にもなりました。学びたいと思っていたことにも時間をあてられましたし、子どもといろいろな素材遊びや知育系の遊びをしながら、復帰後の仕事にどう生かせるかと考えることもありました。自分の子から教えてもらうことが全て、仕事にも結び付けられるなと思っていたので、育休を3年間取ることができたのは大きかったですね。
――出産後に退職する教員も少なくない中で、育休を十分に活用した上で復職し、いっそう活躍されている姿は、若い教員にとっても心強いのではないでしょうか。
私は興味あることにすごく集中するタイプなのですが、それが全て育児に向かってしまうのはよくないと思っています。性格が、言うなれば「きっちり派」なので、自分の子どもに全てのエネルギーを注ぐと、子どもも息苦しくなるのではないかと。
それに、育児を理由にしてやりたいことを諦めてしまうと、子どもが大きくなった時に「自分のキャリアや、やりたいことをあなたのために我慢してきた」とか、「夫の仕事を優先するために私が仕事を断念した」と言ったりしてしまうのではないかと思いました。
だから、育休をしっかり取って子どもとの時間をたくさん持つことは自分の成長にもつながり、子どもにとってもいいことではないかと思っています。
――学校外での活動では、今日のような企業での出前授業に加え、教育イベントや教員向けの研修での講演など、広い範囲で活躍されています。それらの活動は無償だと聞いています。
私は公務員なので、全く報酬は得ていません。
――イラストを提供している「ためカモ学びサイト」も無償ですよね。
そうです。企業から「このイラストを使いたい」と言っていただくことがありますが、そうした際の対応は全て、サイトを運営している別の方がしていて、私はイラストや教材を提供しているだけです。なので、お金は得ていません。
ただ、執筆については兼職兼業届を出せば報酬を受け取ることができるので、その執筆料はいただいています。今も書籍を書いていて、来年刊行予定です。
――今年の夏休みも全国を回って講演などの活動をされていました。それでも、交通費以外は受け取れないのですね。
夏は登壇ラッシュの状態が続いていて、島根県や鳥取県、群馬県、東京都の学校のICT研修会の講師やイベントなどに登壇していました。これらも謝金は一切受け取っていません。交通費以外にも経費がかかっていることを考えると、実質的に赤字になってしまっています。
――講演などで活躍されていた教員が退職してしまうケースも少なくないので、公立校の教員が副収入を得やすい仕組みになればと思うのですが。
そうですね。副業ができるようになれば、辞める先生も少なくなるかもしれません。実は私自身も活動の幅を広げようと思って「教員を辞めようかな」と思った時期がありました。また、子どもが体調を崩しやすい体質なので、子どもが1カ月近く学校にいけない時もあり、そういう状況などで「仕事を辞めた方がいいのではないか」と感じることは、今でも多々あります。でも、やはり目の前に子どもたちがいて、保護者の方との子どもたちの成長を共有したりすると、「辞めたくない」と感じるのです。自分は現場での実践があってこそなのだとも思います。
ただ、キャリアでの迷いはあります。大学で将来の先生を育てるという仕事にも興味がありますし、教材制作をやりたいという気持ちもあります。一方で、先輩の先生方に学びながら、若手の先生にアセスメントの方法や行動分析など自分の専門を伝える役割も大事だと感じています。
【プロフィール】
関口あさか(せきぐち・あさか) 埼玉県立特別支援学校教諭。日本初のCanva認定教育アンバサダー。2015年にマイクロソフト認定教育イノベーターになり、20年に日本初のMicrosoft Innovative Educator Fellowの資格を得た。クラシエ㈱と「ねるねるねるね」の絵本を開発し、知育菓子®先生プロジェクトアドバイザーに就任。イラストレーターとして教育サイトやさまざまな教育書籍などにイラストを提供するほか、専門性や得意のスキルを生かし、特別支援学校の生徒だけではなく、幼児・小学生・中高生を対象にした教材のクリエーターとしても活躍。教員向け講演や研修での登壇多数。