奨学金返還支援82人に適用、新卒教員志望者の減少に歯止め 千葉県

奨学金返還支援82人に適用、新卒教員志望者の減少に歯止め 千葉県
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 教員不足の解消に向け、千葉県が2024年度からスタートさせた奨学金返還緊急支援事業について、25年度教員採用選考(24年度実施)の合格者のうち、82人に適用されることが10月24日、教育新聞の取材で分かった。希望する新卒の合格者全員に対し、日本学生支援機構から貸与を受けた奨学金について、千葉県が代理で返還する。奨学金の返還支援は高校3年生から応募することができ、来年度以降の適用を求める希望者についても、すでに約160件を認定しているという。千葉県の25年度教員採用選考では、新卒の志望者の減少に歯止めがかかり、大学3年生を対象とした一次選考の志望者がほぼ倍増した。こうした動向と奨学金の返還支援の関連性は検証中とされるが、千葉県では「教員志望者の確保に一定の効果があった」と評価している。

申請は高校3年生から 「学費を心配せず、教員養成課程に進学を」

 千葉県の奨学金返還緊急支援事業は、日本学生支援機構の第一種奨学金による貸与を受け、千葉県の小学校・中学校・特別支援学校(義務教育学校も含む)の教員採用選考に新卒者として合格した人に対し、10年間に分けて貸与額の全額を補助するもの。初年度分の経費として、県の24年度当初予算に3670万円を計上した。高校教諭、養護教諭、栄養教諭は対象外となっている。

 千葉県では、教員採用選考の一次選考を7月に、二次選考を8月に行い、10月に25年度採用予定の合格者を発表した。千葉県によると、合格した25年度採用予定の教員のうち、奨学金返還支援の対象者は82人となった。また、奨学金の返還支援は高校3年生から大学4年生まで申請できるため、来年度以降の適用を求める希望者について、現時点で約160件を認定しているという。

 高校3年生から奨学金の返還支援を申請できるようにしている理由について、千葉県教育庁では「教員になりたいけれども、学費の負担が心配で大学や短大への進学を迷っている高校生がいる。高校3年生のときに申請して県が認定すれば、その後、県の教員採用選考に合格したときに、県による奨学金の代理返還が約束されることになり、安心して教員養成課程への進学を選ぶことができる」(教育振興部教職員課)と説明している。

 また、奨学金返還支援の認定数に上限がないことも注目される。千葉県の奨学金返還緊急支援事業では、事前に申請して千葉県の認定を受けた新卒の志願者が教員採用選考に合格すれば、その全員を対象に千葉県が貸与額の全額を代理返還する。奨学金の返還支援に上限を設けない理由について、千葉県教育庁は「教員採用選考では人物重視で公正公平な選考を掲げている。だから、一度、合格した人に対して、さらに順位をつけて上位の一部だけ奨学金の返済を支援するのは、われわれの精神に反する」としている。

 申請は常時募集しており、千葉県では今後も申請が増えるとみている。

教員志望者の確保に「一定の効果」 大学3年生の志望者は倍増

 こうした奨学金の返還支援事業は、教員志望者の確保にも効果があったようにみえる。千葉県教育庁によると、効果を示唆する数字が2つある。

千葉県公立学校教員採用候補者選考の志願状況
千葉県公立学校教員採用候補者選考の志願状況

 一つは、教員採用選考の志願者が減少傾向となる中で、25年度教員採用選考では、新卒の志願者の減少に歯止めがかかったことだ。25年度教員採用選考の志願者数は募集人員1900人(前年度1700人)に対して、志願者数は4560人(前年度4949人)で389人の減少となったが、このうち新卒者の減少は6人にとどまったという。募集人員の増加と志願者数の減少で、志願倍率は2.4倍(前年度2.9倍)に下がった。

 千葉県教育庁では「前年度まで新卒者と既卒者は減少分のほぼ半分ずつを占めており、両者に大きな違いはなかった。特に小学校では大学が発出する教員免許の数に大きな変動がない中、新卒の志願者の減少が続いていたが、25年度教員採用選考では、そういう傾向がみられなかった」と指摘。その要因について「これまで免許を取ったけれども、新卒で教員にならなかった人が増えていたが、その傾向に変化があるのかもしれない。または、教員になろうと思う人が、他県ではなく、千葉県を選んでくれたのかもしれない」と話している。

 もう一つは、25年度教員採用選考で、大学3年生を対象とした一次選考の志望者がほぼ倍増したことが挙げられる。千葉県では、優秀な教員人材を確保するため、大学3年生を対象に一次選考の教職教養と専門教科を実施し、4年生で受ける一次選考を集団面接のみとする「ちば夢チャレンジ特別選考」を実施しているが、25年度教員採用選考では、この大学3年生向け選考の志望者が1386人となり、前年度の739人から1.9倍に増えた。

 貸与型奨学金の返済は、若い世代にとって大きな負担となっている。労働者福祉中央協議会(中央労福協)が24年10月にまとめたネット調査によると、本学生支援機構の貸与型奨学金利用者の借入総額は平均344.9万円で、過去の調査と比べて最も高くなった。千葉県の新卒教員採用者に対する奨学金の返還支援は、教員志望者の高校生や大学生にとって魅力的な制度と言えそうだ。

 この他にも、千葉県では、教員志望者の増加策として中長期の取り組みも続けている。千葉県の県立高校では、県内各地域にある計7校に教員基礎講座を設置し、その講座の修了者には、千葉県地域枠で教員採用選考を受けられる制度を続けてきた。教員基礎講座の修了者には教員志望者が多いが、高校卒業後、東京都内など県外の教員養成系大学に進学し、そのまま県外で教員を志望するケースがある。そうした教員志望者を呼び戻すため、千葉県では教員採用選考に地域枠を設定し、県内の高校で教員基礎講座を修了した人にインセンティブを与えてきた。文部科学省は24年度から教員養成系大学に地域教員希望枠を設定し、教員確保に向けた地元自治体と大学の連携に取り組んでいるが、千葉県では県立高校の教員基礎講座と教員採用選考の地域枠を連動させた取り組みを長年にわたって積み重ねている。

 また、教職の魅力を生徒や学生にアピールするため、高校や大学での出前講座も増やしている。高校の出前講座は昨年度には34校で実施しており、毎年増加しているという。

 教員志望者の増加策について、千葉県教育庁では「短期的に一気に数を増やすのは現実的ではない。地道な対応を積み重ねており、奨学金の返還支援事業もその一つ。新卒の志願者の減少に本当に歯止めがかかったかどうか、今回の数字だけでは分からないが、一定の効果は出ていると考えている」と説明。教員志望の生徒や学生に対して「学費を心配せず、千葉県の教員になるために、安心して勉学に励んでもらいたい」と呼び掛けている。

 奨学金返還支援の詳細は、千葉県のホームページ内にある教員不足解消に向けた奨学金返還緊急支援事業の案内で確認できる。

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