さまざまな企業や他校教員らとのつながりを大切にする関口あさか教諭。「『企業とどうやったら組めるのか』とよく聞かれる」と話す関口教諭に、インタビューの最終回では、企業とコラボする理由やその方法、教員生活の楽しさを聞いた。
――登壇の機会が多く、全国のさまざまな教員と接してきたことと思います。よく質問されることはありますか。
結構聞かれるのが、「企業とコラボレーションしたり、教材を無償提供してもらったりといった協力は、どうやったら得られるのか」といったことです。
――確かに、いろいろな企業と協力しながら授業などをしています。今日の出前授業はクラシエの社屋内でしていましたが、関口先生の授業に同社が協力したのが始まりだったと聞きました。そういったコラボはいつ頃から行っているのでしょうか。
私が企業と最初にコラボしたのは15年くらい前で、ユニクロと連携した授業でした。ファッションショーをしたのです。
「創造をカタチにプロジェクト」という、肢体不自由の子どもが在籍する特別支援学校で行ったイベントでした。肢体不自由など身体障害のある子どもたちの中には手がうまく動かせない子がいて、ペンや筆などの道具を使って表現をするのに困難さがあるのです。それで、指先を動かしてiPadで描いた絵をその場でTシャツに印刷するなどして、3Dプリンターで形にできないかと思いました。
――それでユニクロとコラボされたのですね。何かツテなどがあったのでしょうか。
いえ、全て私から連絡を取りました。クラシエさんとつながったのも一般の「お問い合わせ」からです。「あ、こういうことを子どもたちに体験させたいな。力を貸してほしい」と思ったら、企業の問い合わせ窓口に連絡します。たいていの場合、とても丁寧に返してくれます。
ユニクロさんにも、そのような形で来てもらいました。学校の体育館に大型のTシャツ専用のプリンターを設置して、子どもたちがiPadに描いたデザインをその場でTシャツに印刷するという取り組みでした。自分の顔が大好きな子は、ハートを描いた上に自分の顔写真を貼り付けて名前を書いていました。
それから先生たちにも子どもたちと同じようにTシャツを作ってもらいました。ICTは「使うべきもの」じゃなくて「楽しいもの」「自分にも手軽にできるもの」だと思ってほしかったのです。そうしたら先生たちも本気で作ってくれました。最後にはみんなでファッションショーをして、先生たちのブースも作りました。Tシャツだけでなくシールも作ったりして、男の先生だけで構成した「男のプリクラクラブ」というものも結成されていました。
――当日の写真を見ると、子どもも教員も保護者も、笑顔で生き生きとしているのがよく分かります。
どの子も参加できるよう、自立活動を専任で担当している先生に「この子がiPadを使う上でどういう姿勢だと楽か」とか「筋緊張が起きにくいか」などの相談をできるブースも作りました。また、当時の校長先生はICTが得意だったのも助けになりました。
筋ジストロフィーのお子さんもいて、だんだん描けなくなっていくのですが、そうした段階にあるお子さんにブロックを積んでいくだけで3Dデータができて、3Dプリンターでキーホルダーが作れる活動もしました。指先で演奏したものを、音楽が得意な先生たちを集めて作曲できるようブースを設置したりもしました。
――子ども一人一人の課題に対応できるよう、教員たちのいろいろな強みを生かしながら、誰もが楽しんで取り組めるようにしたのですね。
「子どもたちにもっと、先進的で面白くてやる気が出るような学びをさせたい」という気持ちと、「先生たちの得意なことや好きなことを生かしたい」という気持ちで、新しいことを思い付いたら実現できるように働き掛けています。
でも、学校の予算だけではできることが限られるので、企業に協力をお願いしています。企業にはCSR(企業の社会的責任)もあって、必ずしも利益につながらないことであっても、これまで多くの企業さんが力を貸してくれました。
――企業の方から声がかかっているのだと勘違いしていました。
最近はありがたいことに、企業からお誘いが来ることもあります。でも、できれば自分が「いいな」と思った企業と一緒にやりたいと思っているので、基本的にはこちらから連絡をしています。
クラシエさんも同じで、「ねるねるねるね」というお菓子を作られているのですが、その「ねるねる」というオノマトペのフレーズが言葉の発達を促すのではないかと思い、「ねるねるねるね」を使った絵本を作りたいと思ったのです。でも、商標登録されているものだから授業で使うには制限があるのではないかと思い、問い合わせをしました。
そうしたら「じゃあ一緒に作りましょう」という話になって、それがきっかけでコラボが始まりました。クラシエさんは「知育菓子?」という「作る過程のあるお菓子」のジャンルの商品を出されていて、これを授業に使いたい先生をクラシエと集めて、コミュニティーを立ち上げて情報交換をしています。
――そういう教員のコミュニティーをいくつも立ち上げてこられたのですね。
メインは「MIEE Talks@Admin.」で、他にマイクロソフトやCanvaのコミュニティーなどもあります。
実は最近やった授業の中にすごく熱い授業がありました。Canvaで映像を作ったものなのですが、すごく簡単にできるのです。海の中にいるようなきれいな映像を作って壁に投影したら、あまり周りに興味を示さなかった子も含め多くの子どもたちが魚を捕まえようとしたり、抱きようとしたりする姿が見られました。
その他にもトンネルを作って押したら光るライトを散りばめると、その仕組みを知ろうとして何度も押してみたりするなど、みんなすごく喜んでいたのです。子どもたちが作った作品を天井につるしてクラゲに見立てたりもしました。
――音楽もすてきで、都心にある本物のミュージアムみたいに美しい空間ですね。
こういうのが、ティームティーチングができる面白さであり、醍醐味(だいごみ)だというのを担任になって感じています。いい先生に恵まれていることもあって、本当に楽しいです。
【プロフィール】
関口あさか(せきぐち・あさか) 埼玉県立特別支援学校教諭。日本初のCanva認定教育アンバサダー。2015年にマイクロソフト認定教育イノベーターになり、20年に日本初のMicrosoft Innovative Educator Fellowの資格を得た。クラシエ㈱と「ねるねるねるね」の絵本を開発し、知育菓子®先生プロジェクトアドバイザーに就任。イラストレーターとして教育サイトやさまざまな教育書籍などにイラストを提供するほか、専門性や得意のスキルを生かし、特別支援学校の生徒だけではなく、幼児・小学生・中高生を対象にした教材のクリエーターとしても活躍。教員向け講演や研修での登壇多数。