重要性を増す放課後の校外活動 教育格差も拡大、英国

重要性を増す放課後の校外活動 教育格差も拡大、英国
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英教育省が指針を提示

 英『The Guardian』紙は2023年1月9日に、「Children face multiple safeguarding risks at out-of-school settings in England(英国の学校外の環境で子供たちは複数の安全上のリスクに直面している)」という記事を掲載した。教育省の調査によれば、「毎週、何百人の子供たちが参加するスポーツクラブ、授業センター、ユース・グループなどの学校外の環境で、子供たちが安全上のリスクに直面している」「安全でない施設、資格のないスタッフ、言葉による虐待、身体的懲罰、性的行動などの不適切な行為により、一部の生徒は“差し迫った危機”にさらされている」といい、同省は放課後の校外活動に伴うリスクを説明している。

 教育省の担当者は「放課後のクラブ活動や、その他の学校外の環境での学習は、子供たちにさまざまな刺激的で豊かな機会を提供しており、その大部分は安全な環境で行われている。しかし、私たちは、子供たちの安全性に関する深刻な状況を認識しており、そのための基準を定め、保護者を支援する取り組みを始めた」と語っている。

 こうした調査結果を受けて、教育省は昨年9月に学校外での活動に関する指針を発表した。多くの子供が放課後、運動クラブや学習クラブ、コミュニティー活動に参加しているが、教育法に、こうした活動に関する法的な規制は存在していない。そのため教育省は、学校外で行われるクラブ活動などを提供する組織や個人に対する行動指針を示している。その指針の柱は、①子供の安全の確保②スタッフやボランティアの適格性③健康と安全④ガバナンス――の4つである。「わが省は、全ての校外活動の提供者が法律を検討し、法律を順守することを期待している」「校外活動の提供者は、どの法律が適用されるかを決定し、理解する責任がある」と、提供者の法的な責任を明言している。

放課後の活動で子供の学力に差が出てくる

 こうした放課後の校外活動は、多くの子供に良い影響を与えている。『the Economics of Education』誌に掲載されたスティーブン・リップスコム氏の論文によると、校外活動に参加した子供は、参加していない子供よりも数学と科学で良い成績を収めている。課外のさまざまなプログラムを提供しているOld Ford Academyは、「校外活動は社会的スキルとチームワークを向上させる。これらの経験を通して子供は協力し、効果的なコミュニケーションを取り、集団的な努力の重要性を学ぶ」と、その効果を指摘している(「The Value of extracurricular activities」)。

 その一方で、格差を生んでいるという研究もある。Education Policy Instituteは、中等教育中に課外活動に参加した子供と参加しなかった子供の長期的な効果について調査した(今年2月15日、「Access to extra-curricular provision and the association with outcome」)。その結果、貧富の差によって課外活動への参加の度合いが異なっていると指摘している。富裕層が通う私立学校の子供はさまざまなスポーツクラブや芸術、音楽などの活動に参加しているのに対し、公立学校に通う貧困層の子供の参加率は低かった。

 さらに、こうした問題に対処するために、政府に対して「幅広く子供が参加できる魅力的で質の高い活動の提供を支援するために、課外活動のベンチマークを導入すべきだ。また(課外活動に参加できない子供のために)授業時間を延長することを検討すべきだ。より不利な立場にある学校に、重点的に追加資金を提供する必要がある」と提言している。

 日本でも貧困による教育格差拡大の問題は深刻だ。親の所得や教育水準によって、子供の可能性が制約されている。多くの子供が習い事や塾に通っている。しかし、貧しい家庭の子供には機会は限られている。塾に通わなければ進学できない状況は異常である。課外活動による経験の差も、長期的に子供の成長に大きな影響を与える。そうした子供たちを学校教育がどう拾いあげていくかも、真剣に検討する必要がある。

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