先の衆院選で与党が過半数割れとなり、議席を大幅に伸ばした国民民主党の政策が与党との協議を通じて実現する公算が大きくなっている。国民民主党はどのような教育政策を掲げ、新たな経済対策を反映する今年度の補正予算案や来年度予算案の編成に向けて、どういった教育政策の実現を図っていく考えなのか。国民民主党で参院国対委員長と子ども・子育て・若者政策調査会長として教育政策に携わる伊藤孝恵参院議員は11月6日、教育新聞のインタビューに応じ、「子どもたちにお金をかけなければ、日本はもう立ち行かない」と述べ、教育国債によって教育予算の倍増を図る方針を説明し、当面の経済対策として体育館の空調設置を求めていく考えを示した。給特法の見直しについては「党として賛否をまだ決めていない」とした上で、「教職調整額の引き上げは、諸刃の剣だ。働き方改革や教員増につながらないのならば、反対するべきではないかと思っている」と率直に明かした。
国民民主党は衆院選の選挙公約として、毎年5兆円規模の「教育国債」を発行し、教育・科学技術予算を年間10兆円規模に倍増させることを掲げた。政策の柱は「教育無償化の実現」で、「0~2歳の幼児教育・保育無償化の所得制限を撤廃するとともに、義務教育を3歳からとし、高校までの教育や子育てにおけるあらゆる施策を完全無償化する」としている。
こうした国民民主党の教育政策について、伊藤議員は3つの特徴を挙げた。
第1は「子どもの学びや育ちに線引きが必要ない」という基本的な立場だ。「子育て支援にせよ、高等教育費の負担軽減にせよ、所得制限や支援対象を多子世帯に絞るなど、これまでの教育政策にはさまざまな線引きが行われてきた。こうした線引きは行わず、生まれた子どもは一人残らず支援する。この考え方だから、さまざまな制度に対して所得制限の撤廃を強く主張してきた」と話した。
第2は「野党にしては珍しいが、大盤振る舞いして『大学無償化』と言わないこと」。その理由として伊藤議員は「大学などの高等教育は『行きたい人が行けばいい』とシンプルに考えているから。行きたい人には給付型奨学金を拡充する。人手不足が深刻な教員や自衛官など、公務で貢献してくれる人には奨学金の返済を全額免除する」と説明。一方で、政策の柱としている教育無償化の内容については「出生時から高校卒業まで、授業料はもちろん、給食費や修学旅行費も含めて、完全に無償化する」と述べた。
第3は「幼児教育の質」を重視していること。伊藤議員は「5歳までに学びの素地が決まると指摘する識者が多い中、保育所、認定こども園、幼稚園がある一方で、英語教育の充実や習い事機能を売りものにしているところもあって、それらの施設で教育の質がどこまで保障されているのか分からない。幼児教育の質の保障に、もっと関心を寄せるべきだ」と説明した。
伊藤議員は「日本は『人への投資』が明らかに過小投資だった。過去20年で国の予算が1.7倍、社会保障費が3.3倍になったのに、文部科学省の予算はずっと5兆円台のまま。その間に、中国も米国も戦略的に子どもたちに投資してきた。それがいまの学術論文の数や大学ランキングにも表れている。だから、私たち日本人は過小投資を続けてしまったつけを払わなければならない。これから国債を発行してでも教育投資を倍増させるのは、理にかなっていると思う」と指摘。「とてもシンプルな話だ。『子どもたちにお金をかけるのである。そうでなければ、日本にはもう立ち行かないのである』。そういう意思決定がまず必要だ」と語気を強めた。
週明けの11月11日に臨時国会が開会する。それに先立ち、新たな経済対策に向け、与党・自民党と国民民主党の政策協議が近くスタートする見通しだ。続いて経済対策の財源となる2024年度補正予算案が編成され、年末の25年度予算案編成につながっていく。こうした当面の政治日程の中で、国民民主党はどのような教育政策の実現を図っていく考えなのか。
新たな経済対策と24年度補正予算案の編成について、伊藤議員はまず、「国民民主党としては、いわゆる『年収103万円の壁』を取りに行く」と述べた上で、学校施設の関連として24年の元日に起きた能登半島地震を踏まえて、災害時に避難所となる公立学校の体育館に空調設備の設置を求めていく考えを明らかにした。文科省によると、24年9月1日現在で、全国の小中学校の体育館等で空調設備の設置率は22.1%。「南海トラフ地震や首都直下地震などへの備えを考えても、体育館のエアコン設置率がまだ2割台では困る」と説明した。
気になるのは、25年度予算案編成で焦点となっている給特法見直しに対する国民民主党の対応だ。文科省は、8月の中教審答申を受け、給特法を改正して教職調整額を現行の4%から13%に引き上げることを25年度予算概算要求に盛り込んでいるが、衆院選で与党が過半数割れした現状では、野党の一部が賛成しなければ、25年度予算の成立を見込めない。国民民主党は衆院選の選挙公約で、給特法について「廃止を含め、見直す」と表明。11月4日には、政府が給特法を見直して公立学校の教員にも残業代を支払う仕組みを導入する案を検討しているとの一部報道に関連し、玉木雄一郎代表は「先生の『定額働かせ放題』は見直すべきだ。政府の検討開始を歓迎する」と自身のXに投稿した。
こうした給特法の見直しについて、伊藤議員は「国民民主党は政府与党が提案する法律や政策について、一つずつ政策協議を行う方針をとっている。給特法については、まだ党として賛否を話し合っていない」と説明。
その上で、「党内には教職調整額が引き上げられるならば、それは『引き上げないよりもいい』という議論もある。しかし、私は、教職調整額の引き上げは、諸刃の剣だと考えている。50年ぶりに教員の待遇を改善したことで『ちょっと色を付けておきました。これでいいでしょう』といったことになり、教員の過剰な長時間勤務を是正する働き方改革や、そもそも教員を増やすという本来やらなければならないことをやらないで終わってしまうのではないか。労働基準法を考えても、教員だけが『定額働かせ放題』のフォーマットになっていることは、やっぱり問題がある。それに加えて、教職調整額の引き上げが逆ばねになるくらいなら給特法の見直しには反対するべきではないか、と思っている。教職調整額の引き上げだけでは、まったく満足できない」と、現時点での考えを率直に明らかにした。
さらに、学校の働き方改革を進め、教員を増やす必要性について、伊藤議員はこう話した。「この国に生まれた一人一人の子どもが存分に学び、人生を豊かにするには、出会いと経験を積んでいくしかない。そのためには、学校の先生には一人一人の子どもたちの目を見ながら、先生にしかできない仕事をやってもらう必要がある。そういう環境を作るために、いまの日本の公教育はこのままでいいのか。小学校が40人学級から35人学級になったことは良かったけれども、まだまだ多い。政治家として車座で話をするときも、一人一人の目を見ながら話せるのは20人が限度。もっと先生を増やして、子どもたちにお金をかけるべきではないか。もっともっと社会全体で議論していかなければならないと思う」