公立学校の教師の給与について、財務省が働き方改革を進めるという条件の下で、給特法の教職調整額を段階的に引き上げつつ、10%に達した段階で時間外勤務に見合った手当(残業代)を支給する仕組みへの移行を提案したことを受けて、校長会や教育長会、教職員組合など23団体で構成される「子どもたちの豊かな育ちと学びを支援する教育関係団体連絡会」は11月15日、文部科学省を訪れ、財務省案は「非現実的」だとする緊急声明を阿部俊子文科相に手渡した。緊急声明では、単に時間外在校等時間が短いことをもって給与を引き上げる仕組みを導入するだけでは、教師が充実した教育や指導が行えなくなり、学校教育の崩壊を招くことにつながると警鐘を鳴らしている。
緊急声明では、財務省の提案を「学校や教師の実態を考慮に入れない働き方改革や給与制度についての提案」と批判。学校における徹底した業務削減は必要だとしつつ、学校の業務が増加し、困難化している事実に向き合わなければ、教職員不足も解消されず、学校教育の充実は望めないと訴えている。
また、財務省案では残業代に移行した場合に、月20時間を国庫負担の上限としていることについて、「複雑化・困難化する現在のひっ迫した状況を無視し、今まで以上の負担を学校や自治体に負わせるものであり、非現実的」としている。
連絡会の構成団体の一つである全国連合小学校長会の植村洋司会長(東京都中央区立久松小学校長)は阿部文科相に対し、「(財務省の提案では)日本の学校教育が崩壊してしまうのではないかという大きな危機感を持ったので、学校教育に関わる立場から緊急声明を取りまとめた」と、緊急声明を出すに至った経緯を説明。
「財政審における提案は、現在の学校や教師の実態を踏まえない、非現実的なものと言わざるを得ないと考えている。さまざまな想定外の問題が起こる中で、真摯(しんし)な対応を行っている教職員を顧みず、教師や事務職員など、学校に関わる教職員の定数改善や、スクールカウンセラー、教員業務支援員などの支援スタッフの充実が全く示されていない」と指摘した。
植村会長の話にうなずきながら耳を傾けていた阿部文科相は「財政審における提案は実現性に乏しく、また子どもたちや学校への支援という視点に欠ける内容だというふうに私も理解している。文科省としては、教職調整額の引き上げなど、教師の職責にふさわしい処遇の実現、時間外在校等時間等の縮減のための教職員定数の改善など、必要な予算を要求しており、学校を支える国としての財政的な支援についてもしっかりと対応させていただく」と応じた。
阿部文科相との面談後に記者団の取材に応じた、全日本中学校長会の青海正会長(東京都大田区立志茂田中学校長)は「学校における徹底した業務削減の他に、学校が果たしている社会的使命を踏まえ、一人一人の教師の負担を減らす、教職員定数の改善や支援スタッフの充実、教職調整額の大幅な引き上げをはじめとした処遇改善を一体的に進めることが不可欠だというところで、(23団体の意見は)一致している」と強調。
その上で、教職調整額ではなく残業代を支給することの問題性について「中教審答申では、教師の自発的、創造性に委ねるべき部分の大きい教師の職務の特殊性を踏まえると、一般行政職と同様の時間外勤務命令を前提とした勤務時間管理は適さないとされたと承知している。仮に残業代を支給することになったとしても、国庫負担の上限を月20時間分とするという財政審の提案は、非現実的だ」と話した。