誰一人取り残さない学校の「多層型支援」 戸田市立喜沢小で研究発表

誰一人取り残さない学校の「多層型支援」 戸田市立喜沢小で研究発表
パネルディスカッションで個別最適な学びについて話す村田氏(右)=撮影:松井聡美
【協賛企画】
広 告

 教育データを活用した多層型支援で、誰一人取り残さない学校を目指す埼玉県戸田市立喜沢小学校(加藤貴嗣校長、児童427人)で11月26日、研究発表会が行われた。授業公開と合わせて行われたパネルディスカッションでは、教育新聞のオピニオン執筆メンバーで戸田市インクルーシブ教育戦略官の野口晃菜氏が「『支援が必要な子』『支援が不要な子』は存在しない。全員が何かを学ぶ時に支援が必要だ。今までの学校の当たり前を改めて捉え直していくことが重要だ」と訴え掛けた。

 この日は、5年生の社会科で自由進度学習の授業が展開されるなど、各学年で多層型支援やPBS(ポジティブ行動支援)を取り入れた個別最適な学びを実現した授業が公開された。

 その後のパネルディスカッションには、同校の研究を支援してきた野口氏と、PBSを研究している東京学芸大学非常勤講師の前川圭一郎氏、広島県教委の学びの変革推進部義務教育指導課教育指導監の村田耕一氏が登壇した。

 同校では、児童のQOL(生活の質)の向上を目指し、子どもたちの望ましい行動をポジティブに支援していくPBSを取り入れているが、前川氏は「環境、つまり相手が変われば、コミュニケーションのやり方も変わる。例えば、児童にとっての“環境”である教員が『上手な話し方だね』と言えば児童の会話の自発率は上がるが、『ちゃんと話せ』と言えば、自発率は下がってしまう」と説明。「子どもが抱える困難さの原因は環境にあり、環境を変えることで、子どもたちのQOLは向上する」と強調した。

 野口氏はインクルーシブ教育の実現に向けた多層型支援システムについて講演。同校が取り組む多層型支援とは、まず「第1層支援」で全ての児童に自分に合った学び方への支援や、望ましい行動を増やしていくポジティブな行動支援を、データを用いて効果検証しながら行っていく。その結果、効果が不十分だった児童に対し「第2層支援」として、プラスアルファの手だてを考え、それでも効果が不十分な児童に対しては「第3層支援」として個別の支援を行っている。

 多層型支援システムのポイントとして、「『支援が必要な子』『支援が不要な子』は存在しない。全員が何かを学ぶ時に支援が必要だ。環境によって支援の必要な度合いは変わってくるし、何が社会的障壁(バリア)になるかも変わってくる」と話し、「今までの学校の当たり前を改めて捉え直していくことが重要だ」と述べた。

 村田氏は広島県での実践を交えながら、個別最適な学びについて話を展開。同県教委では、2019年度に1年間「個別最適な学びとは何なのか」を徹底的に研究。その結果としてまとめたのが▽個別最適な学びの目標「全ての児童生徒が主体的に学び続けることができている」▽個別最適な学びの方法「児童生徒一人一人の学習進度や能力、関心などに応じて、多様な学びの選択肢を提供すること」――だった。

 学校現場の教員には、それを「選択肢」と「自己決定」という2つのキーワードで伝えていたと言い、「子どもたちに選択肢を提供しましょう。そして自分で決める場面を学習や学校生活の中で作っていきましょう。これだけを伝え続けていた」と振り返った。

 加えて、個別最適な学びの前提として「子どもは学ぶ力を持っているということを、教員が信じられるかどうか」が重要だと話し、「子どもたちが自分で動くことができるように学習環境を整えると、子どもたちは自ら学ぼうとする力を発揮して、学び進めることができる。裏を返すと、子どもたちが自律的に学べていないのは、学習環境が良くないということ。教員は子どもたちのせいにせず、学習環境にアプローチを続けていくことが大切だ」と話した。

 また、最後に野口氏は「PBSや多層型支援システム、個別最適な学びなどは、一つの手だてに過ぎない。一歩、使い方を間違えると、大人にとって都合のいい子ども像を押し付けることにつながってしまう。さまざまな手だてを取り入れていく中で、重要なのは『本当にこれは子どもたちにとっていいことなのか』を問い続けていくこと。そして、教員にとっても負担の少ない持続可能なシステムにしていくことではないか」と投げ掛けた。

広 告
広 告