今後の教員養成に関する論点を検討してきた中教審初等中等教育分科会の教員養成部会は12月6日、第145回会合を開き、教員養成フラッグシップ大学に指定されている4大学からの報告を踏まえた教職課程の在り方について議論した。文部科学省からは、校長の資質向上に関して自治体が定める指標の策定についての指針を改正し、学校における働き方改革への課題意識を持つことを明記することが報告された。
教員養成フラッグシップ大学は、教員養成の変革をけん引する大学として文科省が指定する制度で、2022年3月から東京学芸大学、福井大学、大阪教育大学、兵庫教育大学が指定されている。フラッグシップ大学に指定されると、先導的・革新的な教員養成プログラム・教職科目の研究・開発などが求められ、教職課程の科目の一部に、フラッグシップ大学独自の科目を充てることができる。
この日の会合では4大学から、フラッグシップ大学の制度を活用したカリキュラムや科目について説明があった。
このうち福井大学教育学部では地域や教職大学院などと連携し、複数の学習内容・学年・学習の場を多層的につなぐ「リエゾン型」のカリキュラムを開発した。
発表した同学の澁谷政子教育学部長は「今後、時代の要請の中で浮上する新たな課題に対応していくことが必要であるのに対し、現行のコアカリキュラム方式は硬直化に傾きやすいように思う。こうした問題を解決する方策として必然かつ有効な解であるとわれわれが考えているのが、地域の実践コミュニティーに参画しながら、省察的に学ぶ『リエゾン型学びのネットワーク』というデザインだ」と解説。
「これまでは学生自身に個々の科目間の関連付けや転移を任せていたと言えるが、リエゾンの仕掛けをカリキュラムとして確実に設計し、コンパクトなカリキュラムで学びの高度化を目指している」と話した。
一方で、東京学芸大学はさまざまな教育課題に関する先端的な内容を学べる教育創成科目を設け、学生が自らの課題意識に基づいて必要な科目を選択できる「自律型カリキュラムデザイン」を打ち出している。
説明した同学の小嶋茂稔副学長は、教育実習をする前に、1、2年次に行われる選択の実践系科目「自己創造のための教育体験活動」との相乗効果を挙げ、「学生は当初想定していた教師に対するイメージが『自己創造のための教育体験活動』を通じてさらに変化したり、深まったりと、当初考えていた選択科目の選択が変わっていくということを把握している」と報告した。
フラッグシップ大学からの報告を受けて、白水始臨時委員(国立教育政策研究所初等中等教育研究部総括研究官)は「実際に学生がカリキュラムを与えられたと思っていても、案外自分で作っている余地があったり、学生が単発の授業を取っているように見えても、自分たちなりに関連付けていたりする可能性もある」と指摘。学生の学びのデータを基に、豊かなカリキュラムデザインに生かしていく可能性を強調した。
真島聖子臨時委員(愛知教育大学学長補佐)は「学習者本位、学習者が自律的に学習するカリキュラムを設計して、目指す教師像や目指す資質・能力を構築していく素晴らしい取り組みだ。このような授業形態は、国立教員養成大学の学生も非常に望んでいる。なぜなら、教員免許を取るための授業は非常に単位数が多くて、取らなければいけない授業という形になっていて、自ら選択・判断し、意思決定するというようなカリキュラムの流れや仕組みが十分にできていないからだ」と話し、フラッグシップ大学の成果を他大学の教職課程にも広めていく可能性を検討すべきだとした。
これまでの議論を踏まえ秋田喜代美部会長(学習院大学文学部教授)は「やはり教職課程の在り方として多様な専門性や経験を有する社会人の教職への参入を促進すること、また、教師の資質を維持・向上させるための採用・研修の在り方など、重要・広範な論点があった。今後の教員養成部会では制度の根本に立ち返ったより一層の議論の深掘りに向けて、審議体制の在り方についても、今後検討が必要であると強く感じる。ついては、議論の充実に向けた教員養成部会の今後の進め方などについて、事務局と検討させていただきたい」と提案し、了承された。
この日の会合ではさらに、文科省から校長の資質向上に関して自治体が定める指標の策定についての指針を改正する方針が伝えられた。
8月に出た中教審答申「『令和の日本型学校教育』を担う質の高い教師の確保のための環境整備に関する総合的な方策について」を踏まえ、各教育委員会の教員育成指標で「校長の指標」を定める際の観点として、「学校教育の質の向上を校長のリーダーシップの下で実現するための前提として、教職員一人一人がその意欲と能力を最大限発揮できる環境を整える必要があることに鑑み、学校における働き方改革を具体的に進めることも課題意識の一つとして持つことが重要」という文言を追加する。
指針の改正は今年度中を予定している。