養護教諭の約4割が「性別に違和感を持つ児童生徒」と直接関わった経験があり、およそ9割が男女別に決められた組み合わせの制服より「選択性の制服がいい」と思っている――。LGBTQ+など性的少数者の子どもへの対応を巡り、そうした調査結果が12月9日までに明らかになった。2023年6月施行の「LGBT理解増進法」では啓発や教育、相談体制の整備といった学校での取り組みを促す努力規定が盛り込まれ、22年12月改訂の生徒指導提要にも「性の多様性」に関する項目が新設。学校現場の役割が増す中、養護教諭が当事者の相談や対応の窓口になっている状況がうかがえる。
調査は宝塚大学の日高庸晴教授(社会疫学)が24年1月から3月にかけて、NPO法人「グッド・エイジング・エールズ」からの委託研究としてオンライン上で実施。9自治体の養護教諭4552人に呼び掛け、2172人から有効回答を得た。性的少数者への対応について養護教諭に特化した大規模調査は稀だという。調査結果は12月5日に会見し、公表した。
性的少数者の子どもとの関与について、これまでに「自分の性別に違和感を持つ児童生徒」と直接関わったことのある養護教諭は42.4%、「同性愛の児童生徒」では22.3%だった。
また、同性愛と性別違和・トランスジェンダーについて①出身大学などの教員養成機関②教職に就いた後の研修③独学のうちどこで学んだのか――を尋ねると、88.3%が「いずれかで学んだ」と回答。さらに①~③の「すべてで学んだ」層では、性別違和・トランスジェンダーの子どもに関わった割合は52.4%であるのに対し、「いずれかで学んだ」層では42.5%、「学んだことのない」層は22.5%と、学びの機会が多くなるにつれ当事者に関わった割合も高まる傾向にあった。
これについて日高教授は「学びの機会が増えるほど性的少数者に関する感度のアンテナが高くなり、児童生徒の小さな変化に気づきやすくなるのではないか」と分析する。
近年、制服の選択肢が広がりつつあるが、トランスジェンダーの中には自認する性と異なる制服を苦痛に感じる子どもが少なくない。こうした制服への考えについて「スラックス、スカート、ネクタイ、リボンなど、いずれの組み合わせもOKとする選択制の制服がいいと思う」との質問に対し、96.4%が「そう思う」と回答。また「性別ごとにアイテムが決められている制服で問題はないと思う」と尋ねると、85.7%が「そう思わない」と答えた。
学校内での情報共有の在り方についても、課題が浮かび上がった。性的少数者の児童生徒から相談を受けた際、養護教諭の90.3%が担任や管理職などと「情報を共有した」と回答。そのうち子ども自身に承諾を取ったのは54.3%と約半数だった。
日高教授は「効果的な対応を進めるために情報共有は重要だが、その際に当事者である子ども自身の承諾を取ることの必要性が学校現場に行き届いていない。性的少数者の場合、相談自体がカミングアウトと同じ意味合いを持ち、暴露行為(アウティング)につながる恐れがある」と指摘。文部科学省が16年に作成した性的少数者に関する教職員向け資料に触れながら、「相談にはチームで対応することが重要。なぜ情報共有が必要なのか、誰と共有するのかを丁寧に説明し、子ども自身の意向を確認してほしい」と強調した。
養護教諭をはじめ学校にできる対応として、日高教授は「性的少数者の記事が掲載された壁新聞を貼る、関連書籍をそろえる、NPOの相談カードを置いておくなどして保健室を情報ステーションとして活用することが可能。当事者に対する明確な情報発信になる。養護教諭には校内研修の提案を行ってもらいたい。ただ、若手などの立場では難しさもあると思うので、教育委員会が率先して重要性を示してほしい」と述べた。