米Code.org幹部が語る 世界に後れを取らないための情報教育

米Code.org幹部が語る 世界に後れを取らないための情報教育
取材に応じた「Code.org」のキー氏(中央)とゲスト氏(左)。手前は2人を招いた国際会議を主催した「みんなのコード」の利根川裕太代表理事=撮影:山田博史
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 世界各地で情報教育の支援に取り組む米国のNPO法人「Code.org」で製品マネジャーを務めるフォレスト・キー氏(国際連携担当・執行役員)と、サイモン・ゲストCTO(最高技術責任者)がこのほど来日し、教育新聞社の単独インタビューに応じた。フォレスト氏らは、日本の学校を視察して「大変すばらしい教育実践を行っている」と評価する一方で、日本でも生成AIなど急速に進化する技術への対応が緊急かつ重大な課題だとして、「世界の流れに後れを取らないよう教育現場や政策のさらなる進化を目指すことが重要だ」と指摘した。

世界中で格差の解消に取り組む

 Code.orgは、2013年に米国で設立され、全ての生徒にコンピューターサイエンスを学ぶ機会を提供することを目指し、60以上の言語で無料のプログラミングコースを提供、180カ国以上で利用されている。キー氏とゲスト氏は今年11月に日本のNPO法人「みんなのコード」が主催した、情報教育振興をテーマにした国際会議に出席するため来日した。2人は同法人のアジアでの支援活動に深く携わっており、日本を含むアジアの情報教育支援の現状や課題について語った。

 ――Code.orgは現在、どんな活動を展開していますか。

 情報教育に関するさまざまな教材を30以上の言語に翻訳して提供しています。特に私たちが提供する誰でもプログラミング学習ができるように教材を集めたサイト「Hour of Code(アワーオブコード)」は60以上の言語に翻訳しています。アジアではインドでの利用が最も多く、韓国やベトナム、中国、日本でも積極的に活用され、アジア全体では約150万人がこのカリキュラムで学んでいます。

 情報教育を巡っては5つの活動に取り組んでいます。1つ目は情報教育の重要性を社会にアピールする啓発活動。2つ目は文部科学省など政府への働きかけ。3つ目はカリキュラムづくり。4つ目は教員を支援する研修。5つ目が教材開発・提供です。ただし、米国以外でこの全てをわれわれが実施しているのは日本ともう1カ国のみで、例えばベトナムでは地元のNPOが政策提言をして、われわれは教員支援と教材提供のみを行っています。日本では、「みんなのコード」のように活発に取り組む団体があるので、具体的な支援までは行っていません。

 ――日本も含めて情報科学分野を巡っては経済格差やジェンダーギャップなどが課題となっています。こうした格差の解消に向けてどう取り組んでいますか。

 世界中のいろいろな格差の解消に積極的に取り組んでいます。米国では女子の格差が最大の課題であり、例えば女子がコンピューターサイエンスを履修するときは女性の教員が指導するなどの取り組みを進めています。女子に限らず、マイノリティーグループにとってはそれが自分にどう役立つかをイメージすることが大切ですので、例えばスペイン語圏で使う教材の映像ではスペイン文化に合わせた内容にするといった工夫をしています。

生成AI時代には、小・中・高をつなぐ一貫した教育が重要

 ――日本の情報教育の現状や課題についてどう考えていますか。

 例えば米国では情報教育に積極的な生徒は6割程度ですが、日本では情報を共通必履修科目にするなど幅広い生徒にリーチしています。これはマイノリティーも含めてインクルーシブに取り組む観点からよい戦略です。日本では新渡戸文化学園や都立国立高校などを視察しましたが、独自の工夫が施されて大変すばらしい教育実践を行っていました。こうした実践を全ての子どもたちに広げるべきだと強く感じました。

 一方で日本でも生成AIなど急速に変化する技術への対応が緊急かつ重大な課題として浮き彫りになっています。この課題に取り組むためには小・中・高をつなぐ一貫した教育の流れを構築することが重要です。また、ジェンダーに配慮した学びの提供も求められ、女性も含めた多様なロールモデルの提示や、誰もが学びやすい教育環境を整える必要があります。世界の流れに後れを取らないよう、教育現場や政策のさらなる進化を目指すことが重要で、特にジェンダー平等や多様性を尊重した学びを推進しながら教育の質を向上させることが急務です。

 ――目覚ましく進化している生成AIに対応するためにどんな資質が求められているのでしょうか。

 われわれは今年10月に初めて生成AIコースをリリースしました。3つの資質・能力が必要だと考えています。1つ目は生成AIで何ができるかを知ることで、テキストだけでなく映像や画像を生成できることも学ぶことが大切です。2つ目はAIの課題や限界について知ることです。ハルシネーション(誤った回答)やバイアス(偏り)といった、AIのいい面も悪い面も把握することが大事です。3つ目はAIの仕組みを認識することです。初等中等教育段階ではチャレンジングなテーマですが、AIがどう動くのかなどを若い頃から理解した上で、不適切なものを生成することなく、安全に使う観点もぜひ押さえてほしいと思います。

指導者は情報の専門家でなくてよい 自信を持って

 ――国際的にフェイクニュースが問題となり、リテラシーを身に付けることが求められています。学校教育はこうしたことにどう取り組むべきでしょうか。

 米国のように生成AIが進んでいる国ほどフェイクニュースは問題化しており、批判的に物事を考えられるようにすることも大切です。情報学や日本でいう高校で学ぶ「情報Ⅰ」のような学問にはデータに基づいて考える体験があり、批判的な思考を育む基盤となる資質能力を養えると考えています。また、他者の意見を尊重して健全なディベートができるようにすることも大事です。

 ――日本の学校現場で情報教育を指導する教員に向けてメッセージをお願いします。

 コンピューターサイエンスの指導者が専門家である必要はなく、世界的にみてもそうしたケースは少ないです。専門的な知識はなくても、いい先生は教え方がうまいですし、教員は自信を持つことが必要です。現在は教員をサポートできるさまざまなツールがあることに気付いてほしいと思います。情報教育に一番大事なのは教員であり、教員がいるからこそ情報教育ができます。われわれや「みんなのコード」のように教員をサポートする団体もいます。さらに生成AIが今後ますます教員を助けてくれる時代になりますので、自信をもって子どもたちへの指導に臨んでほしいと思います。

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