文部科学省の「学校安全の推進に関する有識者会議」(座長・渡邉正樹東京学芸大学名誉教授)は12月20日、第3回会合をオンラインで開き、安全な学校環境の整備に向けた取り組みを示す答申の素案を公表した。
素案では、自然災害や不審者の侵入事件など、学校の努力だけでは防止できない事案が起き、学校の安全を巡る課題は複雑化・多様化したと指摘。そうした中、学校保健安全法で定められた地域との連携が一層必要になるとして、コミュニティ・スクールの活用による効果を強調した。また、学校安全を充実させる取り組みとして、各学校で策定が義務付けられている「学校安全計画」「危機管理マニュアル」を学校運営協議会の場で共有し、実効性について協議するとの考えを示した。自然災害や犯罪被害を巡っては、自治体の防災・安全担当部局や警察も交えた協議体制の必要性を指摘している。
これらの取り組みを進めるにあたり、校長をはじめ管理職のリーダーシップの下、「学校安全の中核を担う教職員」を置くとしている。中核を担う教職員には学校内外との調整を行うための「新たな職」を設けるほか、「適切な処遇」についても検討。過度な負担にならないよう留意した上で役割を分担し、校内組織体制の整備・充実を図ると強調した。加えて、各教職員が効率的・効果的に学べるよう、オンラインと実習を組み合わせるなどした研修を充実させるとした。
素案で示された施策を巡って、各委員からは「学校側はハードルが高いと感じてしまうのではないか」との懸念の声が相次いだ。木間東平委員(東京都葛飾区教育委員会事務局教育指導課・教員研修指導員)は「働き方改革や教委のなり手がいない中、学校は組織運営が難しい状況。まずは何からやっていくという段階的な書き方をした方がいい」と指摘。
北村光司委員(産業技術総合研究所・主任研究員)も「網羅的で情報量が多く、流れや手順が見えないため、何から始めればいいのか判断が難しい」として、「『新たな職』を今いる先生方で担おうとしても機能しない。各学校に設けるのではなく、例えば教委に置いて各学校のサポートを行う職を設置してはどうか」と述べた。
また会合では、2023年度の「学校安全の推進に関する計画に係る取組状況の調査結果」について報告が行われた。学校安全計画については、▽学校安全を担う校内組織が整備されている学校 93.7%(前回の21年調査より6.8%増)▽学校安全の中核となる教員等を位置付けている学校 98.0%(同1.2%増)▽学校安全計画を策定している学校 98.8%(同0.9%増)▽同計画の評価や振り返りを行っている学校 97.0%――と成果がうかがえる一方で、吉門直子委員(土佐市教育研究所・所長)から「依然、計画やマニュアルを策定できていない学校があることは問題。なぜ進まないのか、どういった課題があるのか検討が必要ではないか」との指摘もあった。
安全教育の実施状況を巡っては、複数回答として▽防犯を含む生活安全 93.4%(同0.6%増)▽交通安全 96.2%(同0.5%増)▽災害安全 95.6%(同0.7%増)――という結果で、学校安全3領域で軒並み高水準に。さらに▽弾道ミサイル等の現代的課題への対応 21.5%(同5.7%増)▽インターネットの適切な利用・サイバーセキュリティ 78.0%(同11.7%増)▽性犯罪や性暴力防止 45.3%(同9.5%)――といった領域で伸びが目立った。