学習指導要領の改訂に向けた議論が本格化するのを見据え、文化庁の「文化芸術教育の充実・改善に向けた検討会議」は12月25日、検討会議としては最後となる第11回会合を開き、審議のまとめのたたき台について協議した。たたき台では、ビジネスでもアート型思考やデザイン思考などが求められているとし、個別性・即興性・創発性のある学びとしての、これからの文化芸術教育の役割を強調。次期学習指導要領の方向性を踏まえた、各教科での題材イメージを例示した。今後、座長に一任の上で委員からの意見を集約し、取りまとめる。
2023年7月に立ち上げられた検討会議では、社会構造の変化によって文化芸術の価値が高まっていることを踏まえ、次の学習指導要領を視野に入れつつ、学校における芸術系教科をはじめとする文化芸術教育の今後の方向性について議論してきた。この日の会合で示されたたたき台は、春に出た論点整理を基に、直近の会合でテーマとされた議論の内容を反映した。
たたき台では、文化芸術教育を取り巻く環境の変化として、ビジネスでは、芸術的な自己表現や感性的な表現を起点に作品を生み出すアート型思考や、ユーザー側に立って課題やニーズを理解し、解決策を生み出すデザイン思考が求められるようになっていると指摘。これらの思考は、芸術教育を通じて全ての人が生活の中で必要とする汎用(はんよう)的な創造性を培うものとして不可欠だとした。
次期学習指導要領では、個別性・即興性・創発性のある学びが、これからの学校で重要になることから、芸術系教科が子どもたちの学びの転換をリードしていく必要があると強調。ルーブリックを活用したパフォーマンス評価などで、子どもたちの感性や主体的に学ぶ意欲を適切に評価することも重要だとした。
その上で、次期学習指導要領の芸術系教科は、目標・内容に関する中核的な概念や方略を中心に構造化し、学びの意味や生活・社会とのつながりの明確化をさらに図っていく必要があると指摘。こうした観点から、小学校の図画工作や音楽、中学校の美術を例に、学校現場で構想する題材のイメージを提示した。
この日の会合では、アート型教育の捉え方や芸術系教科の評価について委員間で議論が集中し、具体的な修正などは岡本美津子座長(東京藝術大学副学長/大学院映像研究科教授)に一任され、取りまとめられることとなった。
この他にも、芸術系教科の在り方について、平野次郎委員(筑波大学附属小学校教諭)が「文化芸術教育で培ったものが、他の教科の学びにつながっているかどうか。教材ベースで同じものというだけではなくて、学び方の部分でも共通しているかが大事ではないか」と話すなど、他教科や学校全体の教育課程とのつながりを意識していくべきだという意見も出た。
さらに、加藤泰弘委員(東京学芸大学教育学研究科教授 )は「高校の芸術科教育をどう考えるかが重要だ。高校は大学入試との関係上、どうしても軽く見られてしまうところがある。高校の芸術科をどうしていくか。このまま放っておくと(担当する教員の)非常勤化がどんどん進んで、教科横断的な学びの充実といったものは難しくなるし、学習指導要領に示されている資質・能力が伝わらないということがある」と懸念を述べ、小中高の全体を見据えた系統的な学びを明確にしていくべきだと提案した。