【部活動改革が学校を変えた】 改革当初の失敗

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 2019年から部活動改革に乗り出し、保護者が部分的に負担する外注で学校全体が変わったというのは、東京・北区にある聖学院中学校・高校だ。同校の教頭として改革を主導した日野田昌士氏に、インタビューの第1回では、改革に至る経緯や、改革当初の失敗とその分析を聞いた。

「部活大好きな自分が声を上げなければ」

――19年と早くから部活動改革に踏み切りましたね。きっかけは。

 19年に管理職になったタイミングで、世の中の流れを受けて働き方改革の話が上がりました。そこでまずアンケートをとったら、「一番しんどいのは、大きな声では言えないけれど部活だ」という意見が何人もの教員から出たのです。

 そこで次期教頭職として、私が部活動改革を担当することにしました。

「部活が大好きな自分がやらなければ説得力がない」と思ったと振り返る日野田教頭=撮影:市川五月
「部活が大好きな自分がやらなければ説得力がない」と思ったと振り返る日野田教頭=撮影:市川五月

――日野田教頭ご自身は、長くサッカー部の顧問をされてきたとのことですね。部活動を大きく変えるにあたって、抵抗感などはなかったのでしょうか。

 私個人としては部活動が大好きで、教員になった理由の3割ぐらいは「部活の顧問をやりたい」ということだったんです。自分でも学生時代からやっていたサッカーの顧問をしていて、学校がある東京都北区で専門委員長を務めたりもしました。

 その分、「部活動改革をやる」となった時には、「部活が本当に大好きな自分がやらなければ、説得力がないだろう」と強く思いました。

――改革に着手するにあたって、どのようなことを出発点にしたのでしょうか。

 部活動改革は「教員のため」とか「保護者のため」「社会のため」などいろいろと言われますが、聖学院では生徒の満足度を下げないことを何より優先しています。生徒の満足度を下げずに、関係者の理解を得ながら丁寧に体制づくりを進める。

 そのことを絶対としながら、教員が主たる業務である「授業」に注力できる体制づくりが必要だと結論付けたのです。

生徒の満足度を下げないことを何より優先したという=撮影:市川五月
生徒の満足度を下げないことを何より優先したという=撮影:市川五月

外部指導員を導入するも

――当初の部活動改革はどのように進めたのでしょうか。

 まずはスポットで、外部から指導員を取り入れることにしたんです。学校から年間36万円の予算を出し、月3万円の指導員を有償で雇うという形式でした。

 例えば私が顧問をしていた中学校のサッカー部では、週5日の練習のうち、有償の指導員が週1日担当し、2日は無償のボランティア、そして残りの2日を教員といった形です。ボランティアは保護者や取引業者の営業マン、卒業生など、さまざまなつてをたどって依頼しました。

――週1~3回、外部の指導員に運営を委ねるというのは、近年よく見られる方法ですね。聖学院では、この方法はもう取られていませんが。

 結果的にはうまくいかなかったんです。

 まず、指導が一貫せず、選手はバラバラになってしまったこと。例えば、ボールに座ると怒る指導者もいれば、そうでない指導者もいるなど、細かな指導方法や価値観は指導員によって異なります。どの指導員の言うことを聞くかによって生徒がバラバラになってしまい、混乱に陥るという状況ができてしまったのです。

 そして、指導員のマネジメントに忙殺されるという問題点。有償の指導員ならともかく、無償ボランティアでお願いしている方には、生徒が不満を持っていたり保護者からクレームや要望があったりしても、注文が付けにくいということがありました。ケガなどトラブルが起きた際に、責任の所在があいまいだという面もありました。

――たしかに、外部から来てもらっているという位置付けだと、「責任を取るのは学校だ」という認識になりそうですね。

 はい。それに、卒業生に依頼できたとしても、それが大学生だと2~3年しか継続できませんから、その都度、質が大きく変わることになります。

 それに、他の部活のケースですが、学校の予算で非常勤講師に依頼したものの、立ち位置は専任教員が「主」で非常勤講師が「従」になるため、専任教員の負担が大きくは減らないという実態もありました。

 支払いなどオペレーションも複雑で、結局は複数の指導員のコーディネートとマネジメント業務に忙殺されることになり、本質的な問題の解決にはならなかったのです。新たな発想の下に、新規の仕組みが必要だと分かりました。

改革当初の取り組みについて分析する日野田教頭=撮影:市川五月
改革当初の取り組みについて分析する日野田教頭=撮影:市川五月

【プロフィール】

日野田昌士(ひのだ・まさと) 聖学院中学校・高校総務統括部長(教頭)。同志社国際中高、同志社大学法学部卒業後、聖学院中学校高校に社会科教諭として勤務。高校生徒会顧問、社会科主任、進路指導部長などを歴任。「教育が変わることによって社会が変わる」がモットー。

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