文部科学省と財務省の合意によって公立学校の教員の処遇改善や働き方改革を進めていくための道筋がついたのを受けて、学校教育の専門家らで構成されるプロジェクト「#教員不足をなくそう緊急アクション」は1月8日、教員不足の解消に向けた重点政策を提言した。提言では、教員採用試験の1次試験の共同実施や、次の学習指導要領で必修となる学習内容の精選などを提案。学校の働き方改革や学習指導要領の改訂など、学校教育に関わる政策に現場の教員の声を反映させる仕組みを導入すべきだと呼び掛けた。
2024年12月、25年度政府予算案を巡り文科省と財務省は、公立学校の教員に支給される教職調整額を、学校の働き方改革や財源確保の状況を踏まえながら30年度までに10%へ引き上げることで合意。阿部俊子文科相は中教審に対し、次期学習指導要領に向けた審議を諮問した。
その一方で、学校現場の教員不足の深刻な状況は依然として続いており、緊急アクションでは今後取り組むべき重点政策を提言としてまとめ、文科省に提出した。
提言は▽養成・採用の抜本改善▽離職防止・エンゲージメント向上のためのデータ・声の収集と仕組みへの反映▽学習指導要領の在り方▽教員業務の抜本的な仕分け・削減▽教職員定数改善などの基盤となる環境整備――の5つの柱からなる。
養成・採用の抜本改善では、大学の教職課程で必要な単位数の軽減や教育実習の期間・方法の見直し、教員採用試験を実施する自治体で、1次試験を共同実施することを提案。
緊急アクションのメンバーで学校業務改善アドバイザーの妹尾昌俊さんは「文科省は(教員採用試験の)早期化を呼び掛けているが、言葉を選ばずに言えば中途半端で、民間では内々定がもう出ていたり、日程がばらばらになって内定辞退者がかなり出たりしている。1次試験は共通で行って、2次試験では各自治体で面接や模擬授業などを見る形にし、2次試験は志望順に複数回受験できるようにして、一人の受験者に複数の自治体で内定が出ないように調整する仕組みも含めて考えるべきだ。自治体同士で限られた受験者を奪い合っている場合ではない」と指摘した。
離職防止では、在校等時間の把握以外に教員のウェルビーイングやメンタルヘルス、やりがい(エンゲージメント)などの指標を設定し、校長への人事評価などの参考にすべきだとした。
学習指導要領の在り方では、授業準備や子どもと向き合う時間を教員が確保できるようにするため、必修となる学習内容を精選し、一部は学校の裁量で選択とすることや、観点別評価・指導要録の簡素化などを求めた。
業務の抜本的な仕分け・削減では、「学校・教師が担う業務に係る3分類」をアップデートし、部活動や集金業務、早朝の見守りなど「教員が担うべきではない業務」を明確化すべきだとした。
日本大学の末冨芳教授は「教員の業務ではないものについて全国的な基準を国が示せば、そうした業務に教員を従事させている場合に相談できる窓口を整備することができ、学校や自治体に対して改善指導ができるようになる」と話す。
この他にも教職員定数改善に向けた政策として、非正規教員の割合や教員1人当たりの授業の持ちコマ数に上限を設けることなどを通して、正規教員を増やす必要があるとした。
また、提言ではこうした政策に関して、現場の教員の声を集め、反映していく仕組みが必要だと強調。
School Voice Projectの武田緑理事は「次の学習指導要領の方向性についても、中教審への諮問を読むと個人的には共感できるところが多いが、実際にやるのは現場の教員だ。現場の実感を吸い上げていかないと、いくら理想を描いてもうまくいかない。一方で、現場の声が全てだとは思っておらず、意見を丸のみしてくれと言っているわけではない。現場の声を聞きながら擦り合わせたり、落としどころを探ったりするプロセスが重要だ」と説明した。
【キーワード】
教員不足 さまざまな理由で本来配置されなければいけない教員が学校に配置されない深刻な事態、またはそれに関連する諸問題。▽新年度を迎えても学級担任が決まらない▽ある教科の教員が確保できず授業ができなくなってしまう▽代替教員が見つからない――などの問題が指摘されている。
学校・教師が担う業務に係る3分類 2019年の中教審答申で示されたもので、▽基本的には学校以外が担うべき業務▽学校の業務だが、必ずしも教師が担う必要のない業務▽教師の業務だが、負担軽減が可能な業務――に整理した。学校の働き方改革でも、この分類に基づく業務の精選が求められている。