学習指導要領の次期改訂に向けて、中教審で本格的な議論が始まるのを前に、改訂のポイントなどを探る教員向けのセミナー(主催:教育調査研究所)がこのほど、札幌市で開かれた。大学教授や文部科学省職員らによるパネルディスカッションなどが行われ、「教員も結果を待つだけでなく積極的にメッセージを発信してほしい」など、授業を通して感じたことを発信しながら、主体的に議論に参加してほしいとの意見が相次いだ。
はじめに、同研究所の天笠茂理事長が基調講演を行った。文部科学省の有識者会議の座長として昨年9月、今後の教育課程の在り方などの論点整理をまとめた天笠理事長は、現行の学習指導要領について、「主体的・対話的で深い学びなどのコンセプトはおおむね妥当だが、現場の教員でどこまで実践されているかといえば道半ば」と述べた上で、次期改訂の議論が進むこの1、2年を教員がどう過ごすかが重要だと指摘。
「ただ議論の結果を待つのではなく、それを超えることが求められている。主体的対話的で深い学びがどこまで実現したか、保護者や地域にどれだけ理解されているか、授業を通して確認するとともに、現場からの重要なメッセージとして感じたことを発信してほしい」と呼びかけた。
このあと教育関係者や文科省関係者をパネリストにしたパネルディスカッションが行われた。コーディネーターを務めた国士舘大学の喜名朝博教授がはじめに、これまでに学習指導要領と現場の乖離(かいり)はなかったか、社会に開かれた教育課程は実現しているかなどと問題提起をした上で、次期学習指導要領を考える上でのキーワードを3つ挙げてほしいとパネリストに呼びかけた。
これに対して東京学芸大学の大村龍太郎准教授は「方法より目指す姿」と話し、「どんな子どもの姿を目指すのか、子どもがどんな姿なら学びが深まっているのかを考える前に方法を考えがちだが、それでは本末転倒であり、まず目指す姿を明確にすることが大事だ」と強調。
その上で「スリム化」を掲げ、「スリム化とは内容を減らすという単純な話でない。中核的な概念や本質的に大事なことを捉えていれば、物事の軽重の判断などは柔軟に考えられる。そこを押さえた上でスリム化、焦点化を考えてほしい」と述べた。
また、過去2回の学習指導要領改訂に携わった文科省初等中等教育局の田村学主任視学官は「まず、明らかに学校の指導や教育課程は洗練されてきている。その上で働き方改革や不登校など広範な要素への目配りが求められているのであり、前向きに考えてほしい」と呼びかけた。
キーワードには「深い学び」「デジタル学習基盤」「カリキュラムのデザイン」を示し、「柔軟な教育課程を編成することができれば、小中学校もこういう子どもを育てたいからと独自に教育課程を編成することが可能になる。これはとてもクリエーティブであり、豊かで楽しい学校をつくれるチャンスだと考えてほしい」と強調した。
最後に喜名教授は「学習指導要領の議論を通して学校の役割を改めて考えるきっかけになると思う。教員にとってこの数年間をどう過ごすかは大事であり、日々の授業を充実させる中で生じた課題をどんどん発信してほしい。そして先生自身の学習指導要領にしてほしい」と述べ、セミナーを締めくくった。