厚労省が公表した2024年の自殺者数の暫定値で、児童生徒の自殺者数が過去最多の527人に上ったことについて1月30日、児童生徒の自殺対策などに取り組んでいるNPO法人「OVA」代表理事の伊藤次郎さんに聞いた。子どもの自殺対策を巡っては相談窓口の整備などが進んでいるものの、伊藤さんは「悩んでいる子どもの多さに比べて、圧倒的に受け皿や担い手が不足している」と指摘する。また、子どもを支える学校や家庭が厳しさを増していることも背景にあるとして、「子どもの悩みに対応するゲートキーパーを支えることも重要だ」と強調した。
同省のまとめによると、24年の自殺者数は全体的には減少した一方、児童生徒については小学生15人、中学生163人、高校生349人で計527人に上り、過去最多となった。特に中学生女子と高校生女子で増加が目立ち、初めて女子の自殺者数が男子を上回った。
こうした中、「OVA」は昨年7月から子どもたちの自殺防止に向けて、1人1台端末向けのツール「SOSフィルター」の無償提供を開始、インストール件数は10万台を超えている。このツールは、「死にたい」「自殺」などの文字を検索すると、自動的に相談窓口などの情報がポップアップ表示される仕組み。検索に対応する文字は「自殺」「学校での人間関係(いじめなど)」「家庭での人間関係(虐待など)」など、約5000個が設定されている。
こうした対策に取り組む伊藤さんは、児童生徒の自殺者数が過去最多に上ったことについて、「全体の自殺者数が減り、まして少子化が進む中で非常に深刻な事態であり、社会全体で対策を進めるべきだ」と話す。「SOSフィルター」の利用状況からも、危機的な状況が浮かび上がる。昨年11月分の利用について調べたところ、約6万台の端末で相談窓口などのポップアップ表示回数は5114回に上ったという。これを全国の端末数(約1200万台)に換算すると、「死にたい」「自殺」などの文字が全国で毎月100万回以上、検索されていることになる。
児童生徒の自殺予防を巡っては、国の対策が強化されて2018年ごろから相談窓口などが広がっているものの、伊藤さんは「死にたいなどと悩む子どもの数に比べると、受け皿や担い手が圧倒的に不足している」と強調する。また、背景に、子どもたちを支える学校や家庭が非常に厳しい状況に追い込まれていることもあると指摘する。「教員から『死にたい』と相談を受けることもあるし、家庭も物価高や生活の困窮で余裕がない。子どもをケアするゲートキーパーを支えることも重要だ」と述べ、子どもの支援とともに家庭全体を支える視点も必要だと語る。
こうした中で伊藤さんは悩みを抱える児童生徒に対しては、「悩みを伝えることは恥ずかしいことではないので、周囲の大人に話してほしい。相談しづらい場合は、NPOやネットで匿名でも相談できるので利用してほしい」と語る。
また、教員に対しても「学校だけで子どもを支援することには限界があるし、SOSの出し方を子どもに教えることも大事。地域や学校外の機関とどう連携するかについても一緒に考えたいし、同じように悩みについては周囲に相談してほしい」と訴えている。
同法人は「SOSフィルター」の無償提供を続けており、関心のある教育・学校関係者にはサイトから問い合わせてほしいと呼び掛けている。