13回にわたり、現行学習指導要領について考えてきた。まだいくつか話すべきことはあるが、昨年12月25日、文科相から中教審に対し「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について」諮問がなされ、すでに次期学習指導要領の検討が始まっている。そこで、まずは諮問文について見ていきながら、残りの話題についてはその中で適宜触れていきたい。
一般的に、諮問文には一定の形式がある。冒頭に「次に掲げる事項について、別添理由を添えて諮問します」とあり、続けて諮問事項が来る。今回の場合は「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について」である。そして、次ページより「理由」が述べられるが、わずか数行で終わる場合もあれば、数ページに及ぶこともある。今回の諮問理由はかなり長く、詳細な記述となっている。
まず、諮問に至った経緯や現状認識などが語られ、続けて顕在化している課題が3点にわたって提起された。これを受け、中心的に審議を要請する4つの事項が記され、その下に各事項をより具体化した24の事項が示されている。
これらの事項が今後の審議において議論される主なものと考えられるが、理由の末尾には、関連する事項も含め幅広く検討するとともに、同日に別途諮問された「多様な専門性を有する質の高い教職員集団の形成を加速するための方策について」に係る検討を含め、教育課程の実施に必要となる条件整備にも留意することを求める旨の記載がある。今回の諮問の大きな特徴と言えよう。
審議すべき事項について考える前に、顕在化している3つの課題を見ておこう。なぜなら、これらを踏まえて各事項が導出されていると読めるからである。
課題の1点目は、多様性を包摂し、一人一人の意欲を高め、可能性を開花させる教育の実現である。多様性の顕著な現れとしては、大幅に増加している不登校児童生徒、特別支援教育の対象となる児童生徒、外国人児童生徒、特定分野に強い興味や関心を示したり、特異な才能のある児童生徒が挙げられている。これらの子どもたちへの支援の充実は最優先で検討される必要があるが、多様性とはこれらの子どもたちだけの問題ではない。
特段の問題もなく学校で過ごしているように見える子どもの中にも、大いなる多様性はある。顕在化している問題の有無ではなく、一人一人の子どもの幸せの実現、そのための発達権・学習権の十全な保障という観点から、学校教育の在り方を見直すことが望まれる。
これは、2021年1月26日の中教審答申『「令和の日本型学校教育」の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現~』で打ち出された考え方である。諮問理由における、多様性の包摂が「我が国の社会及び教育の積年の課題でもある『正解主義』や『同調圧力』への偏りから脱却する」のに重要であるとの位置付けは、まさにこの答申で議論された多様性に関する基本的な認識を色濃く反映していると言えよう。
2点目は、現行学習指導要領の理念や趣旨の浸透が道半ばであるという課題である。この連載でも見てきた通り、現行学習指導要領ではさまざまな改革が実行された。当然一朝一夕で実現するものではなく、その覚悟なり見通しをもって告示されたと承知しているが、コロナ禍の影響はすさまじく、予想以上に困難を極めたというのが正直なところであろう。大切なのは、不都合なことも含め、このような冷静で客観的な事実認識に立って今後を展望することである。
併せて「道半ば」という表現は、今日まで歩んできた道を引き返したり、方向転換したりはしないとの意思を暗に示しているとも読める。これに呼応するかのように、始まったばかりの中教審での検討においても、現行学習指導要領を「熟成」するのが望ましいといった意見が複数の委員から出ている。
3点目は、デジタル学習基盤の効果的な活用である。これについては、すでにさまざまな会議体が組織され、活発な議論がなされてきたが、多くは現行学習指導要領告示後のことである。GIGAスクール構想の成果と課題をどのように引き受け、学習指導要領に記すか。教育課程政策史上、かつてない新たな課題であり、周到かつ大胆な議論を要することが予想される。
以上、大急ぎで3つの課題を見てきた。2点目については本連載で丁寧に検討してきたが、1点目と3点目については、改めてしっかりと考察する必要がありそうである。というわけで、次回以降、これらについて考えることにしたい。