今年1月に行われた大学入学共通テストで、初めて科目に加わった「情報Ⅰ」を巡って、現場の教員らが出題傾向の分析や今後求められる授業について意見を交わすイベントがこのほど、オンラインで行われた。高校の教員ら4人の登壇者は「身の回りの事象と情報を結び付けた良問が多かった」などとおおむね評価した上で、今後求められる情報の授業について、「暗記ではなく、探究的な実習を中心とする授業が一層求められるのではないか」などとの見方を示した。
オンラインイベントは、NPO法人「みんなのコード」が「実際、情報の共通テストについてどうだった?」をテーマに主催し、高校で情報を指導する教員や学者など4人が登壇して意見を交わした。
今回の共通テストの「情報Ⅰ」は大問4つで構成され、スーパーのレシートから得られる情報を読み解く問題をはじめ、グループの会計係がメンバーから集金する際に用意すべき千円札のおつりの枚数、観光庁の公表データの分析など、生活に身近なものを題材にデジタルの仕組みやデータ分析などの力を問う内容を中心に出題された。
はじめに大問ごとに、4人の登壇者が解説した。大問1を担当した山梨大学大学院の稲垣俊介准教授は「情報社会の問題解決やコンピューターとプログラミングなど、『情報Ⅰ』で扱う4分野がうまく入っている問題で、実社会で幅広く活用されるものが取り入れられていた。生徒は情報技術の面白さだけでなく、社会に貢献する意義も深く感じとれたのではないか」などと分析した。
大問4を担当した愛知県立旭丘高校の井手広康教諭は、観光データなどを扱った出題について、「オープンデータを使って探究的な学びを進めようという、出題する側からの強いメッセージを感じた。観光者と出張者などのデータ分析の方法などは授業でも使えると思うし、私自身も授業改善に役立てたいと思う」と述べた。
全体の難易度については、「ただの暗記ではなく、身の回りの事象と情報をひも付ける授業ができていれば解ける問題が多く、問題集などより難易度は低かったのではないか。こうした問題を踏まえて、教師が授業改善に役立てるいい機会になると思う」と述べた。
また、「みんなのコード」の永野直講師も出題傾向について、「覚えることから考えることが問われる内容にシフトしていることが、出題内容から伝わってきた。自分の関係あることにこれだけ世の中に関わっている技術があると、試験を受けながら気づくことを実感できる問題だったのではないか。改めて自分で考える癖をつけることが大事だと感じる」と話した。
今後の授業の方向性について、東京都立小平高校の小松一智指導教諭は「1年生で『情報Ⅰ』を学ぶことが多いと思うが、1年生からテスト対策をすることはやめてほしいと思う。実習中心の授業を進める中で、いかに問題解決を図れるか、生徒の印象に残るような身近で興味を持てる題材で授業を進めることが大事になるのではないか」と指摘した。
さらに個々の生徒に応じた指導について、稲垣准教授は「自走してどんどん進む生徒もいれば、進まない生徒もたくさんいる。興味関心の低い生徒をどうファシリテーションして流れにのせてあげられるか、見取りや声掛け、お膳立ての力量が教師に求められると思う」と述べ、改めて教師自身の指導力も問われることになると強調した。