埼玉県の高校司書がイチオシ 新しい読書体験ができる本!?

埼玉県の高校司書がイチオシ 新しい読書体験ができる本!?
『本を読んだことがない32歳がはじめて本を読む』の裏話を語る担当編集社の刑部さん(右)=撮影:藤井孝良
【協賛企画】
広 告

 本と出合うきっかけを増やそうと、埼玉県の高校図書館司書らで構成される「埼玉県高校図書館フェスティバル実行委員会」が実施している「埼玉県の高校図書館司書が選んだイチオシ本2024」がこのほど発表され、第1位には、読書経験がほとんどないウェブライターのかまどさんとみくのしんさんが文学作品を思いのままに味わう『本を読んだことがない32歳がはじめて本を読む:走れメロス・一房の葡萄・杜子春・本棚』(大和書房)が選ばれた。同書に投票した学校司書は、本を読むのが苦手な子どもにも紹介できると太鼓判を押す。県内の書店や公共図書館などとも連携して、イチオシ本コーナーの設置やパンフレットの配布などが行われる。

 今回で15回目となるこの取り組みは、23年11月1日から24年10月31日に初版が発行された書籍を対象に、県内の高校、特別支援学校の学校司書が、高校生に薦めたいもの上位3点を投票。1位には3ポイント、2位には2ポイント、3位には1ポイントが与えられ、そのポイントの合計で順位を決める。今回は139人の学校司書が参加した。

 34票・95ポイントを獲得し、1位に輝いた『本を読んだことがない32歳がはじめて本を読む:走れメロス・一房の葡萄・杜子春・本棚』は、笑いを誘うユーモラスな切り口が人気のウェブメディア「オモコロ」の企画が基になっており、ウェブライターのかまどさんとみくのしんさんが、文学作品を読み進めながら、掛け合い形式で独自の解釈や感想が差し込まれるという、類を見ない読書体験できる。

 題材となっている作品は太宰治の「走れメロス」や芥川龍之介の「杜子春」など、教科書にも掲載されたことがあるような名作ばかりだが、最後の「本棚」は、『変な家』などで知られる人気ホラー作家の雨穴さんの書きおろし作品となっている。

 昨年8月に発行されると瞬く間に話題となり、現在の売り上げは8万部を超えているという。担当した大和書房編集部の刑部愛香さんは「読書へと誘う入門書でもあるので、書店や図書館の棚で、ぜひ収録された文学作品と一緒に並べてもらえたら」と、相乗効果に期待を寄せる。

 同書に投票した埼玉県立深谷商業高校学校司書の武藤(ぶとう)圭佑さんは「雨穴さんの作品は高校生の人気も高く、最初はそれで興味を持って借りる生徒が多い。読書論を扱った本はあまたあるが、本を読むのが苦手な子どもにも紹介できる一冊だ」と評価。

 埼玉県立草加南高校学校司書の釜萢(かまやち)亮さんは「本の読み方は自由だという、救いのようなものを感じる。大人は子どもに本を読めと言うが、どう読むかまではなかなか教えてくれない。そんな中でこの本は、文学的にどうなのかということが分からなくてもいいから、自分の経験と照らし合わせながら、本はどんなふうに読んでもいいんだと、読者に寄り添ってくれる内容になっている」と話す。

 イチオシ本にはこれ以外にも、青崎有吾さんの『地雷グリコ』(KADOKAWA)や恩田陸さんの『spring』(筑摩書房)、宮島未奈さんの『成瀬は信じた道をいく』(新潮社)などが選ばれた。詳細は公式サイトで確認できる。県内の書店や公共図書館でイチオシ本のコーナーが設けられたり、著者からのコメントが入ったパンフレットが配布されたりするほか、YouTubeでは刑部さんが本づくりの魅力を語る対談動画なども公開されている。

 

【キーワード】

読書教育 文学作品のみならず、自然科学や社会科学に関する書籍、新聞・雑誌など、さまざまな本を読み、読書の楽しさを知り、人生を通して豊かな読書習慣を身に付けるための教育活動。

学校司書 学校図書館の運営を担う専門職。学校図書館の蔵書などの管理だけでなく、児童生徒向けの読書案内やレファレンスサービス、教員と連携して学校図書館を活用した学習活動の支援を行うなど、業務の範囲は多岐にわたる。

【訂正】2段落目「今回で15回目となるこの取り組みは、23年11月1日から24年10月1日に初版が発行された書籍を対象に」とあったのは正しくは「今回で15回目となるこの取り組みは、23年11月1日から24年10月31日に初版が発行された書籍を対象に」でした。訂正し、お詫びします。

広 告
広 告