児童生徒の自殺対策について検討する文部科学省の有識者会議が2月26日、オンラインで開かれ、自殺が起きたときに学校などが行う背景調査を巡る課題について、意見が交わされた。この中で、学校の負担に加えて学校以外の複雑な要因が絡んだケースの調査を学校に委ねるのは限界があるとの視点から、「学校と遺族、関係部局と連携するコーディネーター的な役割を担う人材が必要だ」「福祉や医療とも連携できる組織が必要ではないか」などと、背景調査も含めて自殺予防対策に新たな人材や組織が必要との意見が相次いだ。
児童生徒の自殺の調査については、2014年に策定された「背景調査の指針(改訂版)」で、全件について学校が事実関係を整理する「基本調査」を行い、学校生活に関係する要素が疑われる場合や遺族の要望がある場合は外部専門家を加えた「詳細調査」に移行することが定められている。しかし、文科省の調査によると、遺族に「詳細調査」を説明したケースは全体の約6割、実際に移行したのは約1割にとどまっている。
この日の会議では、初めに文科省側から昨年の児童生徒の自殺者数が過去最多の527人に上ったことが報告された後、詳細調査を巡って児童生徒本人の特性や家庭状況といった学校外の要因について、学校や教育委員会がどのように取り組むべきかなどといった論点が示された。
この中で新井肇委員(関西外国語大学外国語学部教授)は「基本調査から詳細調査に移るときは学校や教育委員会が対応すると思うが、学校負担が非常に大きく、遺族も学校が調査することに関して中立性や公平性から抵抗が生じる面がある。例えば市町村教委に、背景調査や詳細調査への移行で関係部局や遺族との連携の要となるコーディネーターを配置することはできないか。第三者性と専門性を持つ要となる役割を担う人がいなければ、対応は難しいと思う」と指摘した。
また、坪井節子委員(弁護士)は、児童虐待が社会問題化して関係機関が連携する「要保護児童対策地域協議会」が組織化された例を挙げて、「これだけ子どもの自殺が大きな問題となっているときに、学校中心の背景調査でいいのかと思う。児童虐待で福祉と教育と医療の垣根が取れて対応しているように、例えば子どもの自殺を巡っては、子ども家庭支援センターのような組織が中心となって、何が子どもを追い込んだか調査し、事後対応に当たる対応も必要ではないか」と提案した。
一方、特に女子の自殺が増加していることに関連して、松本俊彦委員(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部長)は「女子高校生の自殺がものすごく増えているが、臨床現場では10代女子の市販薬のオーバードーズ(過剰摂取)が急増している。こうしたケースの多くは家庭に問題があっても学校で発見され、学校で事例化される面がある。学校でなぜ自殺対策が必要かというと、子どもの異変に気付き、実態を把握しやすいからでもあり、いじめなどに特化せず、学校がSOSを出せる場所であることも忘れずに考えてほしい」と述べ、改めて学校での自殺予防対策の重要性を強調した。