昨年末の中教審への諮問を受けて、次期学習指導要領のコンセプトを検討している教育課程企画特別部会は2月28日、第3回会合を開き、前回に引き続き、使いやすく分かりやすい学習指導要領について議論した。堀田龍也主査代理(東京学芸大学教職大学院教授)がデジタルでの学習指導要領の利活用を推進していく方策について発表し、学習指導要領コードなどのメタデータの教科書への付与を義務付けることを提案。学校現場から単元ベースで授業を構想する実践事例が報告され、学習指導要領の構造化の意義を確認した。
中教審への諮問では、より質の高い、深い学びを実現し、児童生徒の資質・能力の育成につながるのと同時に、分かりやすく、使いやすい学習指導要領の在り方が論点に挙げられている。
これを受けて特別部会では前回会合で、授業改善に直接生かせる学習指導要領とするために、各教科等の中核的な概念などを中心とした、目標・内容の一層分かりやすい構造化について議論を行った。
この日の会合ではさらに、デジタル技術を活用して、目標や内容の校種間・教科等間の関係を俯瞰(ふかん)しやすくしたり、学習指導用要領とデジタル教科書・教材をひもづけて、ユーザビリティやアクセシビリティを向上させたりする工夫が議題となった。
このテーマに関して発表を行った堀田主査代理は、学校現場が学習指導要領を参照するのは、研究授業の準備などの場面に限られ、日々の教科書ベースの授業では、教師は指導書を参照することが多いのではないかと問題提起。学習指導要領が学校現場にとってより使いやすく、分かりやすいものになるためには、構造的な記述によって学習内容の上位項目と下位項目の関係を可視化したり、学習内容の対応を図や表で示したりする必要があるとした。
同時に堀田主査代理は、コンピューターによる可読性を高める工夫も必要だと強調。「現状もPDFで検索などはできるが、それに加えてタグをうまく付けておけば、そのタグのものだけ手繰り寄せることができる。見える粒度(情報の細かさ)をデジタルでうまく表示できるのではないか」と述べた。
その上で堀田主査代理は現行の学習指導要領でも付与されている「学習指導要領コード」に着目。このコードを活用して教科書とドリル教材を連携させる取り組みなども始まっているものの、精密に対応させるには現状のコードでは課題があると指摘した。
こうした課題を解決する方法として堀田主査代理は、学習指導要領コードに加え、教科書の小単元レベルのキーワードなどのメタデータなども教科書に付与することを義務付けることを提案。
「あらゆる教材にメタデータを付与することが推奨されれば、デジタル表示も自動的にリンクできるようになる。教師からすれば、デジタル表示された学習指導要領から教科書や指導書、教材、問題集を見ていったり、逆に教科書のあるページから学習指導要領までさかのぼって見たりするようなことができる。そうなれば、教師も日常的に学習指導要領を参照して、使いやすくなるのではないか」と説明した。
これに対し、神野元基委員(東明館中学高等学校理事長・校長)は「非常に重要な観点だと思うが難しい。さらにそれを教科書会社同士で相互乗り換えができるようなシステムにするとなれば、ハードルはすごく高くなると感じた」と、実現可能性に疑問を投げ掛けた。
堀田主査代理は「もう少し公共的なところに、教科書会社や教材会社のノウハウを持ってくるようなお願いをすることが大事だと思う。ややもすると民業圧迫のようになりかねないので、慎重に議論する必要はある」と答えた。
学校現場からの発表では、埼玉県戸田市立戸田南小学校、石川県加賀市立山代中学校、宮城県仙台第三高校が、それぞれの学校で行われている授業づくりのプロセスについて報告した。
戸田南小の佐藤淳美教諭は、担当する国語の授業づくりを、単元を貫く課題を設定することから始めていると紹介。児童の実態を踏まえた深い学びを行うには、こうした単元を貫く課題を位置付けた授業構成は重要としつつ、それを考えるのは時間がかかるため、学習指導要領よりも指導書などを活用しがちであると振り返った。
佐藤教諭は「他教科でどのような学びをやっているかを確認し、自分の担当教科にどう生かせるかを知るためには学習の全体像を見渡せる学びの地図である学習指導要領に目を通す必要がある。学習指導要領を見れば、教科の本質とともに各教科等とのつながりや全体像が理解できる。そのようになれば学びの充実になると思う」と話した。
山代中でも、単元を意識した授業づくりに取り組んでおり、2024年度からは単元の目標や流れ、時数、手だて、評価などを見渡せる「単元マップ」を作成し、生徒と共有しているという。さらに、学年ごとに各教科等の年間指導計画を統合し、1年間の学習活動を俯瞰(ふかん)できる「単元配列表」を作成し、教科間で資質・能力などの関連付けをしやすくしている。
こうした単元で授業を構想するメリットについて、同中の中村奈緒美教諭は、狙いに沿ったパフォーマンス課題を設定し、指導と評価の一体化が実現したことや、生徒が学習の見通しを持てることを挙げ、教師の負担軽減につながる可能性もあると示唆。その一方で「過渡期ということもあり、負担感を覚える部分もある。単元の準備にはまとまった時間が必要だ。具体的には、学習指導要領の難解な文章を読み解くこと、羅列的な内容を構造化することなどがある」と指摘。学習指導要領の見せ方を改善し、こうした負担を軽減することを求めた。
仙台第三高校は複数の教科が連携して、学校設定科目を展開していることなどを紹介。同高の石川俊樹校長は多様な高校の実態を踏まえ、「各高校の違い、在籍する生徒の違いに応じて、もっとフレキシブルにカリキュラム編成や授業づくりができるようになることが望ましい。そのためにも、目指すべき基本方針や押さえるべきポイントを大胆に絞り込んだ新しい学習指導要領が生み出され、教師が自分たちの自由裁量で主体的に授業づくりを楽しめるような、意欲的取り組みが増えていくことに期待している」と述べた。
学校現場の報告に関し、松原修委員(東京都武蔵野市立第二小学校校長、全国連合小学校長会常任理事)は「ともすると単元は教科書で与えられてしまっていると思われていることもあるが、本来は教師がデザインして子どもたちと共有するものだと思う。それが実現すれば子どもの学びも変わっていく。そのためには、分かりやすい学習指導要領であることや、(単元を構想する)まとまった時間が必要だ」と指摘した。
また、田村知子委員(大阪教育大学連合教職実践研究科教授)は、各学校の取り組みでカリキュラム・マネジメントが意識されていたことを踏まえ、「カリキュラム・マネジメントは縦横に見渡さなければいけないので大変だ。そこで、例えば学習指導要領に別表で縦の系統を見ることができるようにしたり、横のつながりが見えるようにしたりすることが考えられる。一つの中に何でも書き込むと一層見にくくなると思うので、付録的な形でやってはどうか」と、見せ方を提案した。
【キーワード】
学習指導要領コード 学習指導要領の全ての項目に、共通ルールにのっとって振られている16桁のコード。共通のコードでひもづけることで、異なる教材の同じ学習内容を関連付けて表示したり、学習履歴をデジタルで蓄積しやすくなったりすると期待されている。
カリキュラム・マネジメント 児童生徒や学校、地域の実態を適切に把握した上で、教育の目的や目標の達成に必要な教育内容を、教科等横断的な視点で組み立てたり、必要なリソースを確保したりするなどして、教育課程に基づいて組織的かつ計画的に各学校の教育活動の質を向上させていくこと。