デジタルツールで社会経済的格差をなくす NZの教育者に聞く

デジタルツールで社会経済的格差をなくす NZの教育者に聞く
「マナイアカラニ教育プログラム」の代表を務めるバート氏(オンラインで取材)
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 教育先進国としても知られるニュージーランドでは、早期からICT教育を取り入れてきた。一方で、日本と同様、社会的・経済的に恵まれない家庭の子どもたちのデジタル格差は課題となっている。低所得コミュニティーの子どもたちの学力向上をデジタルツールによって支援しようと活動している「マナイアカラニ教育プログラム」の代表であるドロシー・バート氏に、同プログラムでどのようにICTを活用しているか、について話を聞いた。

低所得者層でも安価でデジタルデバイスを購入できる制度を導入

 ――「マナイアカラニ教育プログラム」について教えてください。

 ニュージーランドの社会経済的に恵まれない児童生徒とその家族を対象に、デジタルツールを使って支援するプログラムです。

 全土120校あまりで展開されており、5~13歳ぐらいをカバーしています。国立の学校もあれば、カトリックの学校や、特別な支援が必要な子どもたちの学校なども含まれています。

 デジタルスキルの育成や開発についての目標は、高い水準に設定しており、子どもや教師が自信をもってデジタルツールを使用できることを望んでいます。教師にはグーグル教育者認定資格などを活用して、スキルの判断も行っています。

 ――日本では低所得層ほどICT機器の所有率が低く、デジタル・リテラシーも低い傾向があり、こうした格差を是正していく必要があります。

 ニュージーランドでも同様の傾向があり、私たちもそこに着目しています。まず、私たちはマイクロファイナンス制度を設け、保護者が1週間に4ドルを支払うことで、3年かけてクロームブックを手に入れることができるようにしました。3年後にはアップグレードできるようにしています。

 また、私たちは保護者、学校、政府、企業の間で強力なパートナーシップを築いてきました。それにより学校だけでなく、最も地理的に遠く離れた、最も経済的に困難な家庭や子どもたちも、インターネットにアクセスできるようになっています。

 さらに、子どもたちが自信をもってデジタルツールを使えるようにするために、学校外でもさまざまなトレーニングを提供しています。

毎週1時間、1年間、授業で使えるICT活用をサポート

トレーニングを受けている教員ら=提供:本人(画像の一部を加工しています)
トレーニングを受けている教員ら=提供:本人(画像の一部を加工しています)

 ――教師のICT活用能力を高めるために、どのような取り組みをされていますか。

 教師がICTスキルを学ぶ上でも、自信を付ける上でも課題になっているのは、「時間が足りない」ということです。教師は紙や鉛筆を使ったアナログの教育も、デジタルツールを使った教育も、どちらも求められているからです。

 そうした課題を解決するためにも、私たちは教師のために、大きく2つのアプローチをとっています。1つは、9日間の集中コースを設けており、そこで基本的なデジタルスキルを短期間で学べるようにしています。

 もう1つは、私たちのチームが学校現場に訪問し、毎週1時間、1年間サポートするシステムです。このサポートにより、教師は学校の外に行って学ばなくても良いことになります。アナログの授業をどうデジタルで再設計できるかを伝え、より実践的なことが身に付けられるようになっています。

 こうしたサポートにより、教師は自信をもってデジタルツールを使えるようになります。

 また、教師も児童生徒と同じデバイスを持つことが重要です。自分がデザインした授業が、クロームブックだとどう見えるのかを理解する必要があるからです。

学校現場でのICT活用の様子=提供:本人
学校現場でのICT活用の様子=提供:本人

 ――子どもたちの学びを深めるために、デジタルを活用した方がよい場面、あえて紙やアナログ教材を活用した方がよい場面を使い分けていますか。

 児童生徒が深く学習するためには、正しいツールを使うことが重要です。例えば、歴史を学ぶときに、本を読むこともできますが、動画を見て学ぶ方が短時間でより深く学ぶことができ、より深いディスカッションにつながることもあります。

 デジタルもアナログも両方使って、両方の良いところを、賢く生かしていくことが教師には求められていると思います。

 ――日本でもグーグルのソリューションを多くの公立学校が取り入れています。日本の教師にお勧めの機能や使い方があれば教えてください。

 グーグル・クラスルームのような環境を最大限に生かす上でも、意外かもしれませんが、グーグルドキュメントから始めることをお勧めします。

 グーグルドキュメントにはさまざまな機能がありますし、毎週のように機能が追加されています。その全ての機能の使い方を学べば、作成、共有、共同作業、他の児童生徒との協力などが可能になります。

 まず基本的なグーグルドキュメントで自信を付けることで、他にも拡大していきやすくなります。

 ――今後の展望をお聞かせください。

 全ての子どもたちがデジタルツールにアクセスできるようにし、全ての教師がスキルアップして自信と能力を身に付けることが実現しない限り、どんな素晴らしいテクノロジーが登場しても、それを使いこなせる人と、それを逃す人の間には、大きな格差が残るでしょう。

 私たちはデジタルツールによって、社会経済的な格差を打ち砕くことができると信じています。そのために、今後もプログラムを展開していきたいと思っています。

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