教育省廃止へ動くトランプ米大統領 マクマホン教育長官の担う役割

教育省廃止へ動くトランプ米大統領 マクマホン教育長官の担う役割
マクマホン氏の人事承認を公表する米教育省ウェブサイト
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 ドナルド・トランプ米大統領は長年にわたって、教育関連で「学校選択」や「教育省の廃止」を優先課題に掲げている。3月5日、米ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)が、教育省の廃止を目指す大統領令にトランプ大統領が署名する見通しだと報じた。それに先立ち、3月3日には、教育長官にリンダ・マクマホン氏を充てる人事が上院で承認された。マクマホン氏は世界最大のプロレス団体「ワールド・レスリング・エンターテインメント(World Wrestling Entertainment、WWE)」の共同創設者で元最高経営責任者(CEO)。トランプ大統領と同様に、実業家であり政治家だ。共和党の大口献金者でもあり、第1次トランプ政権では2017年から19年まで、中小企業庁長官を務めた。マクマホン氏は、教育省の規模縮小や廃止に向けた取り組みを主導するとみられる。米国の主要メディアの報道をまとめた。

なぜマクマホン氏を起用?

 トランプ大統領は、所得や居住地域に関係なく、公立・私立の学校やホームスクールなど、子どもの教育における選択肢を保障することを重視している。そのため、連邦政府の権限を縮小させることを目的とした「教育省の廃止」を掲げている。

 24年11月19日の人事の指名発表で、トランプ大統領は政権移行チームの共同議長としてマクマホン氏が行っている仕事を「素晴らしい」と称賛した。「過去4年間、アメリカ・ファースト政策研究所(The America First Policy Institute、AFPI)の理事長として、マクマホン氏は親の権利を強く主張し、AFPIとアメリカ・ファースト・ワークス(America First Works、AFW)の両方で、郵便番号(居住地域)や収入に関係なく子どもたちに素晴らしい教育を受ける機会を与え、12州で普遍的な学校選択権を実現するために懸命に働いてきた。教育長官として、マクマホン氏は米国の全ての州に学校選択権を広げ、親が子どもにとって最善の教育決定を下せるよう力づけるために努力するだろう」と述べ、同氏を教育長官に指名した。

 マクマホン氏は、ノースカロライナ州出身(イーストカロライナ大学卒業)で、現在76歳。長年、「WWE」で実業家を務めてきたが、コネティカット州の上院議員選に立候補するため、09年に辞任した。しかし、10年と12年に落選。その後、「コネティカット州教育委員会」の委員を2年間務め、WWEを通じて「識字教育プログラム」を支援し、「セイクリッド・ハート大学(Sacred Heart University)」の理事会員(04年~17年。21年からは財務担当責任者)を長年にわたって務めている。一方で、「教職歴や教育政策を指揮した経験はない」と資質を問う声もある。

 公立学校の教職員約300万人が加盟する教職員団体の「全米教育協会(National Education Association、NEA)」のベッキー・プリングル(Becky Pringle)会長は、同協会のウェブサイトで「トランプ氏は学生の将来を気にしていない」と懸念を表明している。

教育省を廃止?

 教育省は1979年にジミー・カーター大統領(当時)によって設置された。日本の教育省に相当する機関は文部科学省だが、米国は日本と違って、全米を統一する学校制度はなく、各州が独自の法律で教育を規制しているため、公立学校は管轄の学校区の取り決めに従って運営している。そのため、教育省廃止で大きな影響を受ける学校の数は多くはないといわれている。

 しかし、その一方で、連邦政府による連邦教育プログラム(希望する公立校と私立校の両方が利用できる)では、連邦政府教育省が資金を提供し、指導・監督をしており、それらの資金を教育省から得ている学校は、今後、各州の機関に頼らざる得なくなる。教育省の廃止や権限縮小が進めば、教育政策の決定権が各州に移管されることは確実だ。経済格差のように、教育格差が拡大する可能性も否定できない。

 3月4日、米国の主要テレビ局をはじめ、各メディアは、「リンダ・マクマホン教育省長官は、トランプ政権が教育省解体の布石を打つと見られる中、教育省の『最終任務』と呼ぶものを発表した。新たに長官に就任したマクマホン氏は、今後数カ月の計画で、教育省の 『歴史的な大改革』を行うという」(ABCテレビ)と報道した。

「政府効率化省」が教育省を調査

 トランプ大統領は、教育省の機能を可能な限り削減した上で、省廃止の承認を議会に求める考えを示している。政府の支出削減を担う新組織「政府効率化省」を率いる実業家のイーロン・マスク氏に、同省の支出の調査を指示した。マクマホン氏には「素晴らしい仕事をして自身を失職させてほしい」と伝えたという。

 学生ローン返済計画は一時停止され、連邦政府の教育研究機関も、マスク氏の政府効率化チームによって解体された。移民の強制捜査が行われるかもしれないという恐れから、学生が学業に専念できない状況も生まれている。

マクマホン氏の使命

 教育省のウェブサイトには、マクマホン氏のメッセージが以下のとおり掲載されている。

 「これが私たちの信念である:子どもの教育における第一の決定者は親である。税金で賄われる教育は、分断的なDEI(多様性、公正性、包摂性)プログラムやジェンダー・イデオロギーではなく、数学、読解、科学、歴史における有意義な学習に再び焦点を当てるべきである。中等後教育は、労働力のニーズに沿った高賃金のキャリアへの道であるべきである」

 「お役所仕事と官僚主義的な障壁を取り除くことができれば、親が子どもにとって最善の教育を選択できるようになる。教育の監督権限を州へと効果的に移管できれば、地域社会の自治権も拡大する。教師も、教室でのマイクロ・マネジメントが減ることで恩恵を受け、基本に立ち返ることができるようになる」

 「これは、未来の世代を担う子どもたちに対して、最後の、忘れ難い公共奉仕を行う機会なのだ。私たちの最後の任務が完了したとき、私たち全員が、米国の教育をより自由に、より強くし、より多くの未来への希望をつないだと言えるようにするために、皆さんも私に協力してくださることを願っている」

 トランプ政権は、公的資金を私立学校に投入する「学校選択制度」も提唱している。「公立学校に不満がある家庭が私立学校に通う費用を、政府が補助すべきだ」と共和党議員の多くは主張する。それに対して、教職員の労働組合や民主党議員の多くは「学校選択制度は、約5000万人の子どもを教育している無料の公立学校のシステムを弱体化させる」と訴えている。

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