今年度から区立全小中学校で午後の授業時間を探究「シブヤ未来科」とした東京都渋谷区が3月12日、それぞれの学校の探究を発表する「探究フェス」を、都内で開催した。子どもたちはさまざまな企業と連携した探究学習や、一人一人の興味関心をテーマとした「My探究」などを発表し、他校の取り組みに新たな刺激を受けているようだった。
渋谷区では今年度から区立全小中学校で、午後の授業時間を探究「シブヤ未来科」とする取り組みをスタートさせた。文部科学省の授業時数特例校制度を活用し、各教科の授業時間数を、1割を上限に減らし、総合的な学習の時間を充実させている。
この日は初めてとなる「探究フェス」が開催され、区立小学校18校、区立中学校8校の児童生徒が、それぞれの学校で取り組んだ探究を発表した。
神南小学校の6年生は、4年間の総合的な学習の時間での取り組みについて発表した。3年次にはまちづくり、4年次は福祉と伝統文化、5年次は観光、6年次はアートを探究テーマとし、探究サイクルを意識しながら取り組んできた。また、今年度はMy探究にも年間35時間取り組んだ。
例えば5年次は、観光客に向けたハンカチづくりに挑戦。ハンカチを一緒につくってもらえる会社を調べ、フェイラージャパン㈱に協力を仰ぎ、コラボレーションできることになった。
それぞれのグループでデザインのアイデアを出し、同社にプレゼン。6年生は「ハンカチのデザインが決まり、フェイラージャパンの方と相談しながら、色を決めたり、PRの文章を決めたりするのが大変だったが、協力して決めることができた」と振り返った。
実際に販売することになってからは、商品を売る大変さも味わった。「ものづくりに携わる人たちの思いを知り、一つのものが出来上がる大変さを知った。ただ、販売できたことで、このハンカチが僕たちの思いとともに、世界のどこかで使われていると思うと、とても誇らしい」と笑顔で締めくくった。
また、6年次に取り組んだMy探究については「今まで各教科で学んだことを、総合的な学習の時間で活用することが分からなかったけれど、My探究では教科で学んだことを問いにすることができ、初めて学びを活用するということが分かった」と話した。
原宿外苑中学校は、3年生6人が昨年4月から12月までの、120時間のシブヤ未来科の取り組みについて発表した。
同校では「探究に取り組む前に、『知る』『体験する』というインプットの場が必要不可欠」と考え、こうしたインプットの授業を豊富に設け、授業デザインを大幅に変えることからスタート。主体的な対話を通した探究、そこから得られた学びをもとに新たな体験をしていくという同校独自の学習サイクルを実現させ、「イノベーションを引き起こすには、新しいことに躊躇せずにやってみる実行力と突破力が重要」とし、さまざまな挑戦を重ねてきた。
例えば、共生社会を目指し、生徒会がゼロから企画・運営したパラスポーツを軸とした体験型イベント「原リンピック」を昨年6月に実施。地域の人や20を超える団体の協力を得ることができ、当日の来場者は1000人ほどにもなったという。
生徒は「さまざまな地域の方や団体の方と対話を重ねていく中で、共生するということはどういうことなのかという本質に気付くこともできた」と振り返った。
同校では特別授業が多いため、「学力は大丈夫なのか」という声もあるというが、全国学力・学習状況調査の全国平均や東京都の平均と比較しても、同校の生徒の学力は年々向上していることが分かっている。それに対し、生徒は「さまざまな体験をし、考える力が身に付き、学力が向上しているのではないか」と分析した。
3年生は「学びとは何か。私たちはさまざまな体験を重ねるたびに、あらゆる気付きを得てきた。新たな気付きを得た視点で物事や世の中を捉えると、今までと異なって見えてくる。つまり、景色が変わって見えることが学びなのではないか。全ての学びがつながっていき、自分の核になっていく。それがこれからを生き抜く力になる」と同校での学びについて総括した。
こうした小中学生の発表を受け、同区の伊藤林太郎教育長は「問いを持つことの難しさはあるが、今日の発表を聞いていても、本当に子どもたちがさまざまな興味関心の問いや、先生たちと一緒に考えた問いにチャレンジしてくれていたことに感動した」と感想を述べ、「さらにこんなことにチャレンジしてみたいという思いや、新しい問いもあると思うので、今日をきっかけに、さらに探究を深めていってほしい」と期待を込めた。