シンガポールはアジアの中で最も国際化が進み、最も教育が成功を収めている国の一つである。シンガポールの最大手新聞『Straits Times』が、シンガポールの教育状況に関する記事を掲載している。昨年11月11日に「Singapore students rank top in math, science and reading in OECD study(シンガポールの生徒はOECDの調査で数学、科学、読解力でトップにランクされている)」と題する記事を載せた。
2022年に行われたPISAの調査は同国の15歳の生徒約6600人が参加して行われ、上記の3科目で1位の成績を収めた。読解力の平均スコアは543で、2位のアイルランドの515、3位の日本の516を大きく引き離している。数学のスコアは575、科学は561であった。ちなみに日本は数学が536で5位、科学は547で2位であった。
こうした成果を受け、教育省は「シンガポールの生徒は数学的推論に優れ、関連性のある情報と無関係な情報を識別し、計算的思考(パターン認識、アルゴリズムの定義)を駆使して、さまざまな現代の複雑な問題を解決する能力を示した」と、その成果を誇っている。
ただ同紙は「調査ではシンガポールの生徒に関する、いくつかの問題が浮き彫りになった。まず親のサポートが不足していること。さらに肉体的活動が欠如していることだ。29%の生徒が放課後、全く運動をしていない」と、教育の偏りを指摘している。
また同紙は昨年11月21日に「Singapore’s primary students are world’s best in reading (シンガポールの小学4年生の読解力は世界一)」と題する記事を掲載し、5年ごとに読解力を調べる「PIRLS(Progress in International Reading Literacy Study)」で、世界のトップになったと報道している。
同記事は「シンガポールの児童の35%が難しいテキストを読み、高次の思考スキルを示す『上級レベル』に達している」と指摘している。こうした成果について教育省の教育局長は「読み書き能力は学習の基礎であり、児童が小学校で習得する最も重要なスキルの一つである。教育省のスペシャリストと教師が協力し、カリキュラムの改善や教師の能力向上に努めてきた」と、好成績の理由を説明している。
こうした成果は、シンガポールが優れた教育を行っていることを示している。ただ輝かしい成功の裏には、必ず暗い現実も存在する。教師支援や児童生徒の補習授業などを支援している教育企業Icon-Plusは、昨年7月30日に「The Pressure to Perform: A Deep Dive into Singapore’s Education System (好成績へのプレッシャー:シンガポールの教育制度の深部を探る)」と題する報告書を発表した。
同報告は「シンガポールは目覚ましい学業の成果を誇っているが、好成績へのプレッシャーが生徒の幸福に影響を与えている」と指摘している。好成績の背後に「シンガポールの生徒の86%は、成績不振を心配している。77%が試験の成績に不安を感じている」という現実があるという。
さらに「テストの成績重視は、生徒の全人格的な発展に影を落としている。生徒のメンタルヘルスに対する懸念は高まっており、一部の生徒はプレッシャーに圧倒されている」「一発勝負の入試試験も学習環境のストレスを高めている」「高校入試の激しい競争は、生徒の心に壊滅的な打撃を与える環境を作り出している。シンガポールの若者の自殺率の高さは、この危機的な状況を示す明確な指標だ」と警鐘を鳴らしている。
同国の10歳から29歳の青少年の死因の1位は自殺である。こうした若者のメンタルヘルスの悪化は、単に個人のレベルにとどまらず、家庭、学校、社会全体に波及している。
同報告は、こうした問題に対する「包括的かつ多面的な解決策が必要だ」と強調。「標準化されたテストは教育システムにおいて独自の位置を占めているが、子どもの能力や可能性を測る唯一の尺度であってはならない」「テストの点数から幅広いコンピテンス(能力)に焦点を移すことで、シンガポールは学問的に成熟するだけでなく、絶えず変化する世界で成功するためのスキルと回復力を備えた世代を育成することができる」と提言している。
改めて教育には「完全なモデル」は存在しないと実感した。理想と現実の間で常に揺れ動いている。日本の現実もシンガポールと変わらないのではないか。塾通いをしなければ、受験戦争に勝てない現実がある。筆者の孫が中学を受験したが、塾通いで夜の多くの時間を費やしていた。光は成功した側面を照らすが、常にその裏には失敗した影も存在している。