3月25日に検定結果が公表された高校低学年向けの教科書は、現行学習指導要領で2巡目の検定となることから、内容の改訂がメインとなる。そんな中、現行の学習指導要領で国語の共通必履修科目として新設された「現代の国語」では、前回の検定で物議をかもした、教材として小説を掲載している教科書が増えた。これらの小説の教材には意見が付いたものも多くあるが、同じ芥川龍之介の「羅生門」でも、意見が付いた教科書と付かない教科書があった。
「現代の国語」では、18点中9点の教科書で小説などを教材として掲載していた。前回の検定では17点中2点だったので、大幅に増えた。
しかし、「現代の国語」では、「読むこと」の教材は「現代の社会生活に必要とされる論理的な文章及び実用的な文章とすること」とされ、小説などの文学的な文章は想定されていない。
前回の検定で小説が掲載された教科書には意見が付き、教科書発行者は教材自体の変更はせずに、教材の最後に載っていた学習活動の手引きを修正して対応した。
この教科書が検定合格し、採用が行われた後の2021年8月、教科用図書検定調査審議会第一部会国語小委員会は「現代の国語」で小説を教材として扱うことについては、学習指導要領の趣旨に照らして一層厳正な審査を行う方針を示していた。
今回の検定で小説を掲載した教科書では、小説を「読むこと」ではなく「書くこと」や「話すこと・聞くこと」の学習活動に用いる教材として位置付けていた。
これらの小説の教材に対し、検定では多数の検定意見が付された。意見で多かったのは「学習指導要領の示す内容に照らして、扱いが不適切である」というものだ。
例えば、芥川龍之介の「羅生門」を「書くこと」の学習活動で活用する教材として掲載していても、実際の問いは読解が中心であることが指摘され、修正として問いを削除したり、差し替えたりすることで対応した教科書があった。
一方で、同じ「羅生門」が掲載されていても、検定意見が付かなかった教科書もあった。
前回の検定で「現代の国語」に小説を載せた教科書は22年度の採択で占有率トップを獲得した。今回の検定で「現代の国語」に小説などの文学作品を載せようとする動きが各社に広まったのは、高校現場のニーズをくみ取った結果とみられる。
以前から「現代の国語」で小説を掲載していた第一学習社は文書で回答し、「論理的な文章を読み深めるための素材として、あるいは『話す・聞く』『書く』の学習を行う際の素材として、小説を扱うことが効果的であると考えた。一般論として、(もう一つの国語の共通必履修科目である)『言語文化』の限られた授業時数の中では、小説を指導する時間が確保しにくく、高校現場は非常に困っている、と認識している」と説明した。
【キーワード】
現代の国語 2018年に告示された現行の高校学習指導要領で、「国語総合」に代わる国語の共通必履修科目の一つとして新設された。「話すこと・聞くこと」や「書くこと」の領域の学習が十分に行われていないという国語の課題を踏まえ、実社会・実生活に生きて働く国語の資質・能力を育成する。