東京都利島村とSOLAN学園(愛知県瀬戸市)は3月、双方の強みを生かした学びの交流や地域社会の創造を目指し、連携協定を締結した。利島村唯一の学校である同村立利島小中学校(小野享洋校長、児童生徒25人)は、昨年度に義務教育学校となった。また、SOLAN学園では2021年度に開校した小学校に加え、今年度から中学校が開校し、瀬戸SOLAN学園初等中等部(大立目佳久校長、児童生徒394人)がスタートしている。今後、どのような交流を考えているのか。利島村の三室哲哉教育長とSOLAN学園の長尾幸彦理事長に話を聞いた。
――今回の連携協定の目的を聞かせてください。
三室 私は、利島村の教育長に就任する以前から、何度か瀬戸SOLAN小学校に伺っており、同校の探究学習やICTを活用した先進的な学びに注目していました。
長尾 本学園では、これからのグローバルな時代を生きていく子どもたちに、探究的な学びを通じて自立し、自律する学習者として必要な力を育てる教育を行っています。
また、「グローバルシチズンシップの育成」を建学の精神として掲げていますが、これには違ったものや違った環境を受容することが重要です。
三室教育長に利島村について話を伺った際、子どもたちが義務教育段階終了と同時に島外で暮らすようになる「15の春」のことが印象的でした。利島村と連携することで、同じ日本の中で、お互いの子どもたちが違った考え方や環境を受容する経験が積めるだろうと考えています。
三室 24年1月に改訂された利島村の教育大綱では、一人一人が自燃性(人に言われる前に自ら動く)を発揮し、村の将来を創る「自立した当事者」として活躍する、一体感のある島の実現を目指しています。瀬戸SOLAN学園とは、お互いの目指す教育がリンクしている部分も多いと思っています。
利島は周囲約8キロの小さな島で、限られた環境にあります。子どもたちも大人も、外を見る・知ることで、利島の良いところにも、足りないところにも気付くきっかけになります。今回の連携協定による実践交流や人材交流を、そうした機会として進めていきたいと思っています。
なにより長尾理事長とは「子どもたちが楽しいと思うことをお互いやろうよ」という考え方が一致しているので、これからの交流にワクワクしています。
長尾 お互い1校同士の連携協定なので、意思決定が早いのもメリットだと思っています。どんどんアイデアを出し合い、さまざまなことに取り組んでいきたいですね。
――具体的には、どのような計画があるのでしょうか。
長尾 まず、6月に本学園の小学5年生の選抜メンバー5~9人が利島村に1週間行き、利島村の小学5年生6人とともに授業を受ける計画が進んでいます。一緒に島でフィールドワークをして、社会課題のプロジェクトなどが出来たらいいなと考えています。
また、子どもたちだけでなく、本校の教員も3~5人行く予定です。違う環境にいる教員同士が仲良くなれたら楽しいと思いませんか。
そして11月には、利島村の小学5年生6人が本学園に来る予定です。愛知県は言わずもがな自動車産業が盛んなので、工場見学に行けるよう、すでに調整しています。子どもたちからは「せっかく愛知に来てくれるのならば、名古屋城などに電車で行って、フィールドワークがしたい」とのアイデアが出てきています。
また、どちらの交換留学の際も、子どもたちはホームステイにしようと話を進めています。子どもたちの自立を考えると、人のお宅に泊まることはとても良い経験になると思うのです。
三室 6月は「島でこそ体験できること」を、瀬戸SOLAN学園の子どもたちにも先生にも味わってほしいと思っています。例えば、利島はつばき油の生産量が日本一です。すでにツバキの実を確保してあるので、ぜひ搾油体験をしてほしいと計画しています。
教員からもたくさんアイデアが出てきています。全国的にも珍しい海水のプールや、世界最小のボーリング場にもお連れしたいですし、山登りや釣りもできます。
11月は利島村からも、子どもたちだけでなく、できるだけ多くの教員が行けるように調整を進めています。瀬戸SOLAN学園の探究やICTを活用した先進的な授業は、子どもたちはもとより、教員にとっても大きな学びが得られる機会です。お互いの教員が行き来することで、視野が広がることを期待しています。
長尾 本学園では、小中学校ともに個人探究を週に2時間、取り組んでいます。それ以外に週に3~4時間、学級もしくは学年でプロジェクトにも取り組んでいます。
3カ月ごとにプロジェクトのテーマが変わるのですが、将来的には利島村の子どもたちと同じ期間、同じテーマでプロジェクトを一緒にできたら楽しいだろうなと思っています。
三室 利島村の義務教育学校でも、今年度から本格的にカリキュラムに探究学習を入れていく予定です。瀬戸SOLAN学園に学ばせていただきながら、利島村でも子どもたちが目的意識を持って探究やプロジェクト学習に取り組めるよう、進めていきたいです。
6月や11月の交換留学の前後には、オンラインで事前に自己紹介したり、発表し合ったりするなど、定期的な交流も自然発生的に起きていくでしょう。テクノロジーは学びを豊かにしてくれます。こんなに離れたところでも、これから一緒の時間を共有できることに、子どもたちや教員も期待に胸を膨らませています。