教員による不適切な指導をきっかけに、自ら命を絶った子どもの遺族らでつくる「安全な生徒指導を考える会」はこのほど、子どもの自殺と不適切指導について考える集会を衆議院第一議員会館で開催した。遺族らは、2022年に改訂された生徒指導提要に「不適切な指導」が盛り込まれたものの、学校現場では依然として認識不足にあると指摘。また、日本スポーツ振興センター(JSC)の災害共済給付制度についても、時効廃止などの運用見直しを求め、こども家庭庁の担当者に要望書を手渡した。
集会には同会メンバーの遺族らが登壇。13年に札幌市で、部活動顧問から一方的に叱責(しっせき)されるなどの指導を受け、当時高校1年の弟を亡くした「はるかさん」は「教員が不適切な指導をしなければ防げる死、大人が変われば防げる自殺がある」と訴えた。
22年改訂の生徒指導提要には、教職員による「不適切な指導」が明記され、そうした指導で「不登校や自殺のきっかけになる場合もある」と言及された。さらに翌年3月、文部科学省から不適切指導について、「いかなる児童生徒に対しても決して許されない」とする通知が出された。
しかしはるかさんは「防いでいく仕組みが足りないため、同じような指導が繰り返されている」と指摘する。
文科省では不適切な言動や指導により懲戒処分などを受けた教職員の処分件数を、22年度分から公表しており、23年度は前年比145件増の696件に上った。また23年度の「公立学校教職員の人事行政状況調査」によれば、全国の自治体(都道府県・政令市)で不適切指導を行った教員に対し、懲戒処分基準が整備されていない自治体は23.9%あった。
不適切指導を防ぐには詳細な実態把握と啓発が必要だとして、同会はクラウドファンディングを利用した大規模実態調査を行うと表明。はるかさんは「調査を内諾いただいている自治体もある。不適切指導から守ろうとしてくれる大人がたくさんいるのだと、子どもたちに届けたい」と話し、調査への協力を呼び掛けた。
加えて同会の遺族らは、JSC災害共済給付制度の運用見直しを求め、こども家庭庁の担当者に要望書を手渡した。要望書には「死亡事案の申請期限の廃止や延長」「学校や設置者を経由せず、遺族が直接申請できる仕組みの追加」など6項目を明記。また「遺族や保護者が報告書の内容を閲覧できず、修正の要求ができない」「高校生は『故意の死亡』として対象外にされることがある」として改善を求めた。
同制度では学校管理下で子どもが死亡した際、見舞金を給付しているが、12年に広島県東広島市で中学2年の息子を亡くした遺族は「裁判に8年を費やし、ようやく市が不適切な指導を認め災害給付を受けることができた」と説明。「裁判をしなければ適切な給付を受けられなかった。JSCは遺族に事実をしっかり説明し、納得のいく形で適正な審査を実施することが重要」と強調した。
また集会には、子どもの自殺に詳しい精神科医の松本俊彦さんも登壇。松本さんによれば、自殺した子どもの中には不適切指導が疑われるケースがあり、人前で叱られたりさげずまれたりするなどの「見せしめ的な叱責」を受けていたという。
松本さんは「子どもにとって、小学4年ぐらいまでは家庭が、高校2年ぐらいまでは学校が世界の全て。そこで行き詰まったら、人生終わりだと感じてしまう」と話し、「子どもは成人と違い、死を決意してから行動を起こすまでの時間が短い。6割は1時間以内に実行すると言われている」と説明。学校現場に対し、「一人を見せしめにすることで集団をまとめるやり方は、集団の力学を利用した政治的手法。指導に持ち込むべきではない」と警鐘を鳴らした。