「子どもを枠にはめようとする教育はやめよう」 木村泰子氏が講演

「子どもを枠にはめようとする教育はやめよう」 木村泰子氏が講演
三宅町の保護者や保育教諭、小中学校の教員らを前に講演する木村氏=撮影:松井聡美
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 「“その子らしさ”をまんなかに~大人みんなで育ちを支えるということ~」をテーマに、本紙オピニオン執筆者である大阪市立大空小学校初代校長の木村泰子氏が5月24日、奈良県磯城(しき)郡三宅町立三宅幼児園(幼保連携型認定こども園)で講演した。

 三宅町は全国で2番目に面積が小さく、幼児園1園、小学校1校、隣の川西町との組合立中学校1校という小規模な自治体だ。三宅幼児園は「みんなが自分らしく幸せになれる出発点にする」をミッションに、日々の保育に取り組んでいる。

 この日の講演会には、同園の保育教諭だけでなく、保護者や小中学校の教員ら、同町の子どもたちの教育に関わる約50人が参加した。

 木村氏は「誰も見たことのない未来をつくっていくのが、保育所や幼児園、小学校、中学校だ。三宅町の10年後、20年後は、どんな未来なら幸せだと思うのか。そのベースをつくっていくのが、幼児園や小中学校にならなければいけない」と述べ、見える学力だけでなく、子どもたちが社会で生き抜くための見えない学力の重要性について語った。

 また、幼小中が連携した教育の可能性について触れ、参加者に「幼児園を卒園した子どもたちが、小学校に入学したときのことを想像してみてほしい。例えば、入学式後の1年生の教室で、1人の子がずっと立ち歩いている。他の子はみんな静かに座っている。あなたが担任だとすると、どうするか?」と問い掛けた。

 参加者からは「『大丈夫?』と声を掛けて、手をつなぐ」「一緒に走る」「ちょっと一回、座ろうか、と声を掛ける」などの意見が上がった。

 木村氏は「先生が『座って』と言っても、その子は座らない。周りの子どもたちは、その先生の指導を全部見ている。周りの子どもたちは『あの子は先生が座れと言っているのに座らない子』だと思うだろう。指導は一瞬で暴力に変わる。今まで学校はそういう教育をずっとしてきた。その結果が、子どもの自殺や不登校の増加に表れている」と指摘。

 加えて「立ち歩いている子を座らせることで、大きなチャンスをつぶしてしまう。先生が『分かりましたか?』と聞いたら、『はい』と言わせるような教育をしてきていないだろうか。子どもを枠にはめようとする教育は、もうやめよう」と力を込めた。

 講演の最後には、木村氏が初代校長を務めた大阪市立大空小学校で大事にしていた4つの力「人を大切にする力」「自分の考えを持つ力」「自分を表現する力」「チャレンジする力」を紹介。

 「大空小では、この4つの力を大事にしていた。見えない学力を優先していると、見える学力は結果として向上する。そして大事なのは、大人がこの4つの力を付けること。人と比べたり、人のせいにしたりせず、自分のことは自分が決める。これが自律だ」と締めくくった。

 講演後には保護者から「子どもに対する関わり方を見直そうと思った」といった声や、同園の保育教諭から「私たち自身が当たり前を捨て、変わらなければならないことを気付かせてくれた。すぐに実行に移していきたい」「これからの社会を生きていく子どもたちに、本当に必要な力を養う教育環境とは何かを改めて考える機会になった。教師の『指導』という概念を問い直し、子どもを中心に置いた保育教育の在り方を、町全体で考えていきたい」といった感想が上がっていた。

【訂正】「三宅幼稚園」とあったのは「三宅幼児園」の誤りでした。訂正し、お詫びします。

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