「その場しのぎ」と批判も 給特法改正案巡り参考人質疑

「その場しのぎ」と批判も 給特法改正案巡り参考人質疑
給特法改正案について批判を述べる本田参考人=参議院インターネット審議中継より
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 教員の処遇改善などを目指す給特法改正案を審議する参院文教科学委員会が6月3日開かれ、参考人として招かれた4人の大学教授がそれぞれ意見を述べた。参考人からは「開かれた教育行政への転換点に立つもの」「教職調整額の水準見直しは適当」などと評価する意見の一方、「法案はその場しのぎで、基礎定数の大幅な増加が不可欠だ」などと強く批判する意見も示された。

 同日の参院文科委に参考人として出席したのは、青木栄一・東北大学大学院教育学研究科教授と鍵本芳明・岡山大学学術研究院教育学域教授、露口健司・愛媛大学大学院教育学研究科教授、本田由紀・東京大学大学院教育学研究科教授の4人。

「開かれた教育行政への転換点」

 中教審での議論に加わった青木参考人は、改正案について「教員の多忙や学校の働き方改革という課題に動員可能な政策手段をしっかり整備、対応しようという意思が感じられる」と評価した上で、衆院で時間外在校等時間の縮減目標を加えた修正についても「実効性の観点から評価されるべきもの」と述べた。

 また、教員の業務量管理に関する内容も学校運営協議会の承認を求めることについて、「教育委員会が単独で抱え込む時代から教育行政の外部主体と連携して進める、開かれた教育行政への転換点に立つもの」と指摘した。一方で、改革を着実に進める上で文部科学省の機能強化が必要不可欠と述べ、「少なくとも教育委員会に対する指導や教員の勤務実態把握のためには、担当部局の増員など、司令塔機能の強化が求められる」と付け加えた。

「教職調整額の水準見直しは適当」

 鍵本参考人は、岡山県教委で教育長を務めた経験から、市町村教委によって働き方改革の取り組みに差があると述べた上で、各教育委員会に教員の業務量を管理する計画の策定・公表などを義務付けた点を、「取り組み状況を見える化し、PDCAサイクルを回してさらなる改善を図る上でぜひとも必要な改正だ」と評価。こうした計画について学校運営協議会の承認を得ることについても「学校の働き方改革や進捗(しんちょく)状況を保護者や地域に知ってもらい、学校をどうしていくのかを共に考える上で重要な改正であると考える」と述べた。

 また、教職調整額より時間外勤務手当を支給すべきとの意見があることに対しては、「教員の職務は自発性によるところが大きく、個々の子どもに応じた指導を管理職が把握し、勤務命令の判断をすることは極めて難しく、学校現場に混乱を起こすことが危惧される」と指摘、「職務を包括的に評価した現在の教職調整額の在り方自体を維持しつつ、水準を見直すことが適当であると考える」と述べ、改正案の実現が必要だとの意見を述べた。

「働きがいの維持向上こそ重要」

 露口参考人は、2020年度からある県で実施している教員の働き方に関係する調査に触れながら意見を述べた。「働きやすさ」は教員がゆとりを持って安心して働ける組織職場づくりが実現できているかを指標に、「働きがい」は教員が仕事に熱意と誇りを持ち、活力が得られる組織職場づくりが実現できているかを指標として分析した結果、「働きやすさのみを重視している学校群」で、抑うつ度が高め、幸福感が低めで信頼関係があまり築けていない結果が示されたと説明し、「先生方の心理的な健康のためには、働きがいの維持向上が重要であることが分かると思う」と指摘した。

 こうした点を踏まえて、主務教諭が同僚との信頼関係づくりにしっかり機能して教員の働きがいの向上につなげるとともに、教員をはじめ子ども、保護者、地域のウェルビーイングにつなげようとする改正案の施策のパッケージについては、評価できるとの見方を示した。

「文科省の見解は破綻している」

 本田参考人は、時間外在校等時間という表現について、「教員が自発的に取り組んでいる時間であるかのような印象操作のために使われているが、実態としては労働時間に該当する」と指摘。「明示的な時間外勤務命令がなくても黙示的な指示があれば労働時間と見なされるようになっており、自発的で勝手にやっているかのような文科省の見解は破綻している」と厳しく追及した。

 さらに改正案で目標とされるように、月時間外在校等時間を30時間まで削減できたとしても計算上、教職調整額は10%でなく15%にしなくてはならないと指摘、「5%分の搾取を組み込んで法律として定めることは到底容認できない」と述べた。こうした点を踏まえて「今回の法案はその場しのぎで、策術的なものであると全国の教員の目から見えている。成立したとしても、調整額が10%に達するまで何もしないといったような扱いは許されず、基礎定数の大幅な増加というものが不可欠であると申し上げたい」と強調した。

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