教職員を大声で罵倒する「罵倒観音(ばとうかんのん)」、前例があるか否かが判断基準の「全身前例(ぜんしんぜんれい)」、研究授業のときだけ授業に熱を入れる「其之日茸(そのひだけ)」――。こうした「学校に出没する妖怪たち」をテーマに、東京学芸大学教職大学院特命教授の立田順一氏が6月22日、オンラインで講演した。参加者たちは、「うちの学校にもいる」「自分もそうなっているかも」などと盛り上がりながら、その背景にある現代の学校が抱えている課題についても語り合った。
オンライン講座は、全国の教員らを対象に、教育有識者をゲストに招いた講座を開催している「学校・教育UPDATE Group(独立総合教育政策研究所)」が主催。立田氏が自身のnoteで発信していた「妖怪大百科・学校編」をもとに、学校で妖怪が発生しやすい理由や、発生を防ぐための方法、遭遇した時の対処法などを話した。
例えば、妖怪「罵倒観音(ばとうかんのん)」。これは、教職員を大声で罵倒することが特徴のパワハラ系の妖怪だ。「こんな簡単なこともできないの?」「あなたがいると学校の評判が下がる!」「あなた、教師に向いていないんじゃない?」などと罵倒するが、教育委員会の関係者などの前では口調が変わることが特徴だという。
また、妖怪「全身前例(ぜんしんぜんれい)」は、主に管理職やベテラン教師の中にいる妖怪で、「前例があるか否か」が全ての判断基準となっている。立田氏は「例えば、若手教師が意欲的な提案をしたとしても、『前例がない』という理由で却下して、やる気をそいでしまう」とその生態を紹介。
その対処法として、「前例を踏襲しているように見せかけて、この妖怪に気付かれないように少しずつ変えていくこと」とアドバイスを送った。
やたらと自信満々で自己肯定感が高い若手教師の妖怪「皇帝漢(こうていかん)」は、「そんなこと前から知っています」「言われなくても分かっています」が口癖で、助言などに素直に耳を傾けようとしないのが特徴。立田氏は「本人は自分に教師としての実力があると思っているが、実際には周りの教職員が陰でこっそりフォローや後始末をしていることが多い」と述べ、一方でこの妖怪は「近年の学校における褒めて育てる教育が生んでしまったのかもしれない」と分析した。
他にも、主に定年退職目前の校長の姿をした、波風を立てずに済ますことを重んじ、学校が抱える諸問題が未解決のままになることが多い妖怪「事勿れ(ことなかれ)」や、日本語で説明できてもわざわざ「アジェンダ」「ステークホルダー」といった片仮名語を頻用する妖怪「片仮名頭巾(かたかなずきん)」、パソコンを目の敵にしていて「こんなものを使わなくたって授業はできる」とぼやく、主にベテランや再任用教師に多い妖怪「穴路愚(あなろぐ)」、「うちの子は絶対悪くありません」などと自分の子どものことしか考えられない保護者の妖怪「ウチノコ(うちのこ)」など、30種の妖怪が紹介された。
その後のブレークアウトルームでは、「うちにもいる、こんな妖怪」「妖怪とうまくやっていくために」「自分が妖怪にならないために」をテーマに、参加者らが語り合った。
参加者からは「学校教育業界は保守的だから、妖怪『全身前例(ぜんしんぜんれい)』にはなりがち」「いろいろな妖怪の要素を持っている複合型の妖怪もいる」「妖怪がいると、なんとなく周りもそうなっていってしまう」「どの人にも妖怪の芽はある。自分も当てはまる」などの感想が語られた。
立田氏は「例えば、形骸化している研究授業など、学校には妖怪を生みやすい環境がある。また、妖怪について知ることも大切。もしかすると妖怪本人に悩みがあるのかもしれない。そういう背景が分かると、付き合い方も変わってくる」と話し、「妖怪になる危険は誰でも持っている。私も妖怪『粗探し(あらさがし)』になっている。できるだけ人に迷惑を掛けない妖怪や、人を幸せにするような妖怪になれるといいのではないか」と投げ掛けた。