学習指導要領の改訂に向けた議論の中で、文部科学省が提案している「調整授業時数制度」について、東京学芸大学現職教員支援センター機構の大森直樹教授は6月30日、小中学校の教員に行ったアンケート結果を公表した。制度が想定している標準授業時数から減らした分の活用について、別の教科の上乗せや学校独自の教科の設定には批判的な意見が多く、減らした分を「裁量的な時間(仮称)」として、個別の学習支援に充てたり、教員の研究活動に充てたりすることについては、賛否が拮抗(きっこう)した。
アンケートは5月20日~6月23日に実施。教育文化総合研究所の協力で小中学校の教員に調査票を配布し、調査票にある2次元コードを読み取ってインターネットで答えてもらった。小学校教員4191人、中学校教員1478人、その他63人の計5732人が回答した。
文科省が中教審の教育課程企画特別部会に提案している調整授業時数制度を巡っては、各学校の判断で特定の教科を標準授業時数から1割程度減らせるようにし、その分を別の教科や学校が独自に設定した教科の授業時数に充てられるようにするほか、減らした分を裁量的な時間として、児童生徒の個別の学習支援や学校全体で組織的に取り組む研究活動などに用いることも検討している。
アンケートでは、こうした減らした授業時数の使い道の案について、それぞれ教員の評価を尋ねた。その結果、別の教科の授業時数を上乗せすることへの賛成は27%、学校独自の新教科を設けることへの賛成は18%にとどまり、否定的な意見が賛成を大きく上回った。
自由記述では「授業時数を減らすことに賛成で、他の教科に回るのは減らすことにならないので反対だ」(小学校教員)や「どの教科も決められた時間数の中できちんと指導するように努力しているのに、それを特定の教科を減らして他を増やすというのはおかしい。1割はかなり大きな数字で、それを移動したり、他の教科を新設するとなるとまた現場は混乱する」(中学校教員)などの声があった。
一方で、裁量的な時間を個別の学習支援に充てられるようにすることへの賛成は48%、教員の研究活動に充てられるようにすることへの賛成も48%で、賛否が分かれた。
自由記述では「学力的に厳しい子にとって必要という面から賛成だが、逆に必要ない子たちにとってどのような時間になるのか、学力格差を強調することにならないかという懸念がある」(小学校教員)や「各教師の教材研究の時間になるなら賛成」(中学校教員)などの声が寄せられた。
また、アンケートでは小学校の教員に対して、学級担任の裁量で事前の計画なしに授業の入れ替えや変更を行っているかについても尋ねた。その結果▽している学級担任が多くいる 17%▽している学級担任が少しいる 41%▽している学級担任はいない 21%▽わからない 21%――だった。
文科省で記者会見した大森教授は、教育課程の裁量には、教員が子どもの実態に合わせて行っていた側面と、標準授業時数を確保するために学校や教育委員会が行ってきた側面があると整理し、調査では多くの教員が前者の裁量を求めているのが明確になったと指摘。
その上で「もともと標準授業時数という制度は、国が標準を定めて、現場が裁量を持って組んでいくものだ。よく知られているところでは標準授業時数に足りなくなったときにモジュールで調整するなど、現行制度でもさまざまな裁量がある。現場がそうやって裁量を発揮することは歴史的に見ればよいことだ。しかし、今の中教審での議論で少し違和感があるのは、教育課程の規準を議論するところで現場の裁量のことを論じていることだ」と批判した。
【キーワード】
標準授業時数 学習指導要領で示している各教科などの内容を指導するのに必要な時数を基に、国が定めた学年ごとの年間の授業時数の基準。小学校は45分、中学校は50分を時数の単位時間としている。