教員や保育士などの性犯罪歴を確認する日本版DBS制度の導入に向け、ガイドライン策定の検討を進めている有識者の会議、こども性暴力防止法施行準備検討会が6月30日、こども家庭庁で開かれ、中間とりまとめ素案が示された。これまでの検討会での議論を踏まえ、制度の対象となる業務、安全確保措置の内容、留意すべき点などが示された。労働法制との関係では、犯罪歴が確認された現職者の解雇を判断せざるを得ない場合の論点などが示された。中間とりまとめは今秋にも示され、こども家庭庁は年内のガイドライン策定を目指す。2026年12月のこども性暴力防止法施行、日本版DBSの運用開始を目指す。
日本版DBSは子どもと接する機会がある業務に就く人に対して、特定性犯罪歴がないか確認するもの。こども性暴力防止法での再犯対策の核となる。また、同法では初犯対策として早期把握、被害者保護・支援、研修などを掲げている。
各分野の有識者や関係団体の代表者らによる施行準備検討会はこの日が4回目。会議冒頭、同庁成育局の藤原朋子局長が、児童盗撮画像などをSNSのグループチャットに送信していたとして名古屋市と横浜市の小学校教員が逮捕された事件に言及。「事実であれば、教師という立場を利用して集団で子どもの人権をないがしろにする行為であり、決して許されるものではない。また、対策の重要性を改めて痛感している。今回、逮捕容疑となっている性的姿態撮影等処罰法違反は特定性犯罪としてこども性暴力防止法で対象となる。今回のケースで刑が確定した者は教育の現場に戻れない」と述べ、対策の必要性を強調した。
また、検討会構成員からも意見や提案が相次ぎ、普光院亜紀氏(保育園を考える親の会顧問)は「学校や園での撮影で私用カメラは使わない、学校、園、事業所の機材で撮影した内容は責任者がいつでも確認できるといったルールが必要。また、加害者が教員として保護者、子どもから信頼されている人物と報道され、保護者や周囲が見抜くのは非常に難しいと感じた。また、捜査に積極的に協力するためには子どものプライバシーが守られることを明確にしなければならない」と訴えた。
続いて、佐保昌一氏(連合総合政策推進局長)は「子どもに対する性犯罪は9割が初犯。犯罪事実確認のような再発防止策だけでなく、初犯を防ぐ対策が重要。子どもが違和感を表明できるアンケートや、子どもから気になる発言を聞いた保護者の相談先を明確にするなど細かい情報を事業者が収集できる工夫が必要だ」と提言した。
中間とりまとめ素案では、こども性暴力防止法の対象となる場合がある業務として、実習生や送迎バスの運転手を具体例に挙げた。子どもと一対一となる場面が想定されるかといった点や、支配性、継続性、閉鎖性の観点から実態に応じて犯罪事実確認の必要性を判断することとし、構成員からの指摘も踏まえて学校設置者が判断しやすいよう、ガイドラインの記載方法を引き続き精査していくという。
また、この制度では特定性犯罪歴が確認された対象者は子どもと接する業務から外される。新規採用者は採用時に特定性犯罪歴がないことを条件とし、性犯罪歴が確認された場合の内定取り消しや解雇は法的な根拠にのっとって対応できる。
だが、仮に現職者に性犯罪歴が確認された場合、配置転換、業務範囲の限定といった対応が考えられるが、これまでの検討会でも「事業所の規模、業務内容から解雇以外の選択肢がない場合が考えられる」といった指摘が出されていた。
そのため、中間とりまとめ素案では、「事業者には児童対象性暴力を防止する責務があり、解雇がこども性暴力防止法に基づく防止装置として行ったもの」といった解雇の有効性に関わる論点が示されている。最終的には司法判断になるが、解雇による裁判も想定した踏み込んだ内容となっている。
こども家庭庁はこの日の議論も踏まえて、近く子ども・若者への意見聴取、関係団体へのヒアリングを実施し、今秋の中間とりまとめ、年内のガイドライン策定を目指している。同法は施行期限の26年12月25日を施行日とする方針が固まっている。