本紙電子版6月23日付の記事で報じられているように、文部科学省が同日公表した「英語教育実施状況調査」では、中高生の英語レベルが向上している一方で、地域差が相変わらず大きいことが明らかになった。
近年、日本の初等中等教育において、英語教育では「使える英語」の習得やコミュニケーション能力の育成を主眼とした改革が進められてきた。主な経緯は以下の通りである。
2013年 文科省が「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画」を公表
17~18年 新学習指導要領告示
20年以降
以上のように、各学校段階でCEFRによる目標設定や語彙・活動の充実、指導体制の強化などが進められてきた。英語教育実施状況調査においても中高生の全体的なレベル向上が見られ、順調に英語教育改革が進められているように見える。今回公表された24年度の結果では、中学3年生でCEFR A1レベル(英検3級相当)以上は52.4%、高校3年生でCEFR A2レベル(英検準2級相当)以上は51.6%であり、いずれも調査開始以降、初めて5割を超えた。
だが、本紙記事でも報じられているように、生徒の英語力には地域差が大きい。都道府県と政令市の結果が公表されているが、中学3年生でCEFR A1レベル以上の割合は、次のようにばらつきが大きい。
さいたま市 89.2%
福井県 79.8%
福岡市 65.9%
…
沖縄県 37.6%
青森県 35.8%
新潟市 34.5%
さいたま市は、国の動向に先んじて、小学1年生から中学3年生に独自カリキュラムである「グローバル・スタディ」を導入し、英語の授業時間を大幅に増やしている。また、ALTや専科教員の配置や教員研修にも積極的だ。福井県は、1980年代からALTの積極配置などに取り組み、外部検定試験の受験料全額補助、教員の英語力強化などを進めてきた。両自治体とも、英語ディベートなどのイベントが盛んである。
「英語教育実施状況調査」によれば、生徒の英語による言語活動、教師の英語使用、教師の英語力、ALTによる授業外の活動といった要素が生徒の英語力と相関し、また英語の授業におけるICTの活用やALTが参加する時数割合も間接的に関係していることが分かっている。全国でさいたま市や福井県のように、人手や時間をかけて英語教育に注力すれば、どの地域でも成果が出せるものと考えられる。
他方、文科省では24年度より「AIの活用による英語教育強化事業」を実施し、AIを英語の授業などで活用するモデル校の指定やAI英語活用リーダーによる実践の普及を進めている。この事業は、次期学習指導要領に向け、生徒の英語による言語活動、教師の英語使用、教師の英語力向上といったことを、AIを活用して進めようという意図で進められている。
この事業に参加している岐阜市では、LANGX SpeakingというAI英語学習アプリを使用している。このアプリでは、パフォーマンステストと対話練習ができる。パフォーマンステスト、対話練習、パフォーマンステストという流れで学習を進めたところ、CEFR A1以上の生徒の割合が39.8%から62.7%に向上し、より高いレベルの生徒も増えたという。AIを活用すれば、人手や時間をあまりかけずとも生徒の英語力向上が可能だと言えるだろう。
ただし、AIの活用はもろ刃のつるぎともなりうる。生成AIを使えば同時通訳に近い翻訳が可能となりつつある。AIを活用した学習を進める中で、人間が多くの時間をかけて外国語を学んだとしても、AIが翻訳するのが当たり前になれば、人間が外国語を学んだことは無意味に思われるようになる可能性がある。AIに触れれば触れるほど、人間が外国語を学ぶ意義が分からなくなることが懸念されるのだ。
生徒たちが学ぶ意義を実感しながら英語を学べるようにするには、やはり実際の人間との間での英語を使ったコミュニケーションを体験することが不可欠であろう。実際の人間とのコミュニケーションをする機会があれば、より円滑に話したいという意欲を高めることができるだろう。AIの活用への期待は必要であるが、他方で人間同士のコミュニケーションの機会が不要になるわけではない。AI時代にふさわしい、バランスの取れた英語教育が求められる。