生成AIを活用した学習支援アプリを使った英語授業の様子が7月9日、川崎市の洗足学園小学校(田中友樹校長、児童441人)で公開された。同校は文部科学省のAIを活用した英語教育強化事業のモデル校の一つで、5年生の児童らが教員の指導を受けながら、タブレットに映し出されたキャラクターとの英会話などに挑戦した。
「Where are you from?(どちらの出身ですか?)」と問い掛けると、画面のキャラクターが「I am from Italy(イタリア)」と答える。さらに「What food do you like?(どんな食べ物が好きですか)」と問いを重ねると、「I like sushi(寿司が好きです)」と返ってきた。児童は少し笑いながらさらに質問を重ね、会話のキャッチボールが続く。
このクラスでは今年5月から、英会話教室などを展開するECCの、AI搭載の学習支援アプリを活用した授業を進めている。ALT(外国語指導助手)が授業をリードし、児童の理解が追い付かない部分などは英語教諭がサポートする。この日は、翌日に台湾の子どもたちとのオンライン交流を控え、児童らは英語でのあいさつから簡単な自己紹介、フリートークの内容などについて試行錯誤しながら内容を整理した。
こうした作業の後、授業の終盤で各児童がAIのキャラクターとの会話に挑戦した。このクラスの児童がAIと会話するのは初めてといい、児童らは好きな食べ物から教科、スポーツなど、オンライン交流の予行演習も兼ねる形で画面に集中して対話に取り組んだ。
AIとの対話を、児童たちはどう受け止めたか。男子児童の1人は「本当に人が話しているようで、とても練習になると感じた。きちんと話さないと通じない難しさもあったが、それも勉強になると思う」と話した。
また、ある女子児童は「私は少し滑舌が悪いけれど、きちんと聞き取ってくれるまで繰り返すことで、英語の発音が少し良くなった気がした。これからも隙間の時間に、好きな動物や食べ物に関する会話を試してみたい」と話した。
授業に立ち会った野口紗百合教諭は「普段の授業では積極的に発言する子とシャイな子に分かれてしまうが、タブレットでは均等に話せるので、発言の少ない子もこれだけ話せるのかと気付かされた。先行してAIアプリを使っている6年生では、トーキングテストで相当話せる子が増えて効果を感じている」と話した。
ただし、AI活用の授業を進める上で、「それぞれの発話量がすごく増える一方、せっかくネーティブの先生や友達もいるので、バランスを取りながら授業を進めていきたい」とも話した。
同校では来年1月まで、5年生と6年生の英語授業にAIアプリを取り入れながら授業を続けることにしている。
同校にAI搭載の学習支援アプリを提供するECCは、文科省の英語教育強化事業に採択された団体の一つで、今年度は同校も含めて小中高合わせて12のモデル校で実証事業を進めている。
同社ICT推進室の荒川義大さんによると、同アプリは学習指導要領の単元に沿ったコンテンツを用意し、小学校から高校まで各学年にレベルに合わせて調整できるのが特徴で、学校のカリキュラムの中に必要に応じてAIとの会話を組み込んでもらっている。
同社では2018年から学校への試験的な導入を始め、英語の発話量が大幅に増えたという報告が寄せられているという。今後は児童生徒へのフィードバックを要望する声もあることから、「会話の相手プラス内容を評価する部分も加えようと現在、アップデートを進めている」と話す。
文科省はAIの活用による英語教育強化事業に力を入れており、今年度は300校以上をモデル校に指定して授業で活用している。同省が毎年実施している「英語教育実施状況調査」によると、小中学生の英語力は全体的に上向いているものの、地域間格差が大きいなどの課題がある。
こうした中、AI活用の授業を取り入れたある市では、英検3級相当の中学生の割合が約40%から60%以上に増えたという成果があったといい、同省は来年度、さらに対象校を増やす方向で検討を進めている。