次期学習指導要領における教科書に関する制度上の課題などを検討している、中教審デジタル学習基盤特別委員会のデジタル教科書推進ワーキンググループは7月10日、第10回会合を開き、デジタル教科書の使用可能期間などの論点について議論した。現在、国で購入して提供しているデジタル教科書はライセンス期間が1年となっているが、これまでの学習を振り返るニーズなどがあることから、学校現場の委員からは、デジタル教科書をより長い期間使えるようにすべきだという意見が出た。一方で、そのコスト面を検討する必要性なども指摘された。
この日の会合では、デジタルな形態の教科書の発行・供給義務の範囲の考え方や使用可能期間(ライセンス期間)、障害のある児童生徒向けの拡大教科書や点字教科書などの教科用特定図書、アクセシビリティ機能などについて検討した。
特に現在のデジタル教科書は使用可能なライセンス期間が定められており、国が購入して提供しているデジタル教科書はライセンス期間が1年となっているほか、民間販売されているものは、その教科書の使用学年の間やその教科書が発行されている間、児童生徒の在籍期間、特定の期間など、発行者や教科書の種目によってばらつきがあり、次期学習指導要領では、どの程度の期間、デジタルな部分を使用可能にするかが論点になっていた。
中村めぐみ委員(茨城県つくば市立みどりの学園義務教育学校教頭)は「本校は9年間の義務教育学校で、9年生で受験期になると(前の学年に)さかのぼってつまずいているところを参照したくなる場面が考えられる。デジタル教科書に書き込んだ内容がポートフォリオのように記録されるようになれば、参照したくなることも想定される」と指摘。使用可能期間をより長くしたり、卒業後にアカウントがなくなっても、ある程度利用できたりする方法を検討すべきだとした。
阿部千鶴委員(横浜市立荏田南小学校校長)も「子どもたちは自分の学びの履歴を見たい。過去に自分はどんなふうに考えたかや、発言したことなどがデジタル教科書の中に書き込まれて残っているならば、それは見ていきたいのだと思う。新しい学習に入るときに過去にどんな勉強をしてきたかをさかのぼれると、理解の促進につながる。補充の学習に使いたい場面はあらゆるところで起きてくると思うので、1年や2年と言わずに、他学年のものを見ることができるようにしてほしい」と要望した。
一方、岡本章宏委員(教科書協会デジタル化専門委員会委員長、教育出版ICT事業本部本部長)は「デジタル部分の供給期間を考える上では、発行者側としては配信コストを切り離して考えることはできない」と強調。「使用実態をベースに考えれば、究極的にはずっと使えることが一番よいとなってしまう。それを基に法的な義務がある供給期間とされてしまうと、紙では配信コストがなかったのが、デジタルだと発生するということになる。デジタルの使用可能期間を考える際には、配信期間に生じるコストを十分に検討していただきたい」と、慎重な議論を求めた。
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教科書供給義務 教科書発行法で、教科書発行者は教科書を発行するとともに、教科書を各学校に供給するまで、発行の責任を負うとされている。現行制度では教科書は紙で製作されているため、学校に供給された段階で発行者の義務は履行される。現在のデジタル教科書は教科書ではないため、法的な発行責任はない。