部活動地域移行「学校を置き去りにしない議論を」 全日中・青海会長

部活動地域移行「学校を置き去りにしない議論を」 全日中・青海会長
次期学習指導要領に向け、青海校長は「学びの在り方にも変革が必要」と強調=撮影:板井海奈
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 地域移行に揺れる部活動に、動き出した学習指導要領改訂、深刻化する教員不足……。中学校を取り巻く現状は、かつてない変化と山積みの課題にさらされている。こうした中、昨年度に続き全日本中学校長会(全日中)の会長に選出されかじ取りを行う青海正・東京都大田区立志茂田中学校校長は、「学校現場の声を代表することが私の役割」と強調する。全日中会長として異例の2年目を迎えた青海校長に、改めて意気込みを聞いた。

部活動の地域移行「地域ごとの課題が露呈」

 全日中での2025年度の活動にあたり、青海校長が「重点的な取り組み」として掲げているのが部活動改革だ。国は23~25年度を「改革推進期間」に設定、主に中学校の休日の部活動について、学校から地域への移行を進めてきた。

 部活動改革がスタートして3年。青海校長は改革の現状について「地域移行を進める中で地域ごとの課題が露呈し、改革が想定以上に容易ではないことが分かった」と指摘する。

 「例えば東京都など都心部の場合、子どもの数はある程度確保されているものの、教員の長時間勤務を是正するには外部人材に頼らざるを得ず、地域クラブも含めた連携のあり方が課題になる」

 校長を務める志茂田中では各教員に意向を聞き、希望する教員だけが部活動を担当している。部活動指導員等の力を借りて負担軽減に努めているものの、「まだまだ教員に頼らざるを得ない状況」だという。

 かたや地方では、少子化のスピードが加速度を増している。とりわけ野球やサッカー、吹奏楽といった一定数の部員が必要な部活動では、すでに影響が顕著だ。

 「近隣の学校同士で協力しなければ活動が成り立たない地域は少なくない。そのため複数校での合同練習の進め方や、移動手段の確保に頭を悩ませている」

 部活動改革を巡っては24年5月、有識者会議による「最終とりまとめ」の提言が出され、26年度以降の6年間を「改革実行期間」に定め、休日は原則として全部活動で地域移行を進めることになった。これらの取り組みについて有識者会議の委員でもある青海校長は「実態を把握したからこそ、じっくりと時間をかけ改革を進めていく方針が示された。6年間の間には検証の機会も設けられている」と評価する。

 しかし「教員の働き方改革」の観点から見ると、懸念が残る。最終とりまとめでは、部活動改革の主目的を「急激な少子化が進む中でも、将来にわたって生徒が継続的にスポーツ・文化芸術活動に親しむ機会を確保・充実する」と規定。その下に※印を付け、「改革を実現するための手法を考える際には、学校における働き方改革の推進を図ることや良質な指導等を実現することについても考慮」と明記している。

 「学校の働き方改革については補足的な書き方にとどまっている。部活動改革は教員の長時間労働の問題からスタートしたはずだが、専門人材を生かしスポーツや文化を活性化させるなどさまざまな意義が掲げられ、論点が分散した。今では町おこしの様相も呈してきている。このあたりの経緯は丁寧な説明が必要だ」

 青海校長は「子どもたちのスポーツ・文化活動はもちろん重要」とした上で、「なぜ部活動改革が必要になったのか、それを踏まえた議論に戻さなければならない。学校現場を置き去りにした展開になったときは、方向性がずれないよう、話し合いながら修正していくのが私の役割だと思っている」と強調する。

 また多くの子どもたちにとって、部活動は「心の居場所になっている」と青海校長は言う。その意義を継承できるよう「拙速な地域移行の取り組みは避けるべき」と注意を促す。

 「多くの生徒はアスリートを目指しているわけではない。技術が向上すればうれしいものだが、それ以上に仲間と活動する楽しさや喜びが勝っているのではないか。そんな居場所であり続けるよう、部活動を学校から機械的に切り離すのではなく、丁寧に展開を進めていくことが求められている」

 地域移行の推進にあたっては、教員はもとより住民の理解が欠かせない。

 「いざ地域移行を進めてみたところ、教員の理解を得られず学校現場が反発している自治体もあれば、よそに比べ地域移行が進んでいないと住民から責められている自治体もある。国は予算や受益者負担も含めた道筋を描き、教員や保護者だけでなく、地域全体にしっかりと説明をしていかなければならない」

2年目の全日中会長として意気込みを語る青海校長=撮影:板井海奈
2年目の全日中会長として意気込みを語る青海校長=撮影:板井海奈

外国人生徒の増加「学びに活用しない手はない」

 部活動改革だけではない。中学校教育は今、大きく変わろうとしている。およそ10年ぶりとなる学習指導要領の改訂に向け、中教審・教育課程企画特別部会での議論が本格化しているのだ。青海校長は全日中会長として、25年度の活動方針に「学習指導要領の改訂に係る取り組み」を提起する。

 「次期学習指導要領に向け全日中として関わり、議論の経緯を見届けていく必要があると思っている」

 とりわけ注視しているのが「教育DX」の分野だ。少子高齢化やテクノロジーの急速な進展などにより、将来の予測が難しい時代を迎える中、「グローバルに活躍する人材の育成が求められている」と青海校長。柔軟な発想で、複雑かつ多様な課題に対応する力を養うには「学びの在り方にも変革が必要。デジタルとリアルの最適な組み合わせによる、新しい授業スタイルの展開に注目している」と力を込めて言う。

 「例えば農業では、従来の栽培方法に加えてロボットやAIといったデジタル技術の力を取り入れながらデータ収集をするなどして、品質向上につなげている。学校でも同じように、これまでやってきた授業内容に掛け合わせる形で、デジタルを活用した情報収集・分析といった要素を盛り込むと面白いのではないか」

 一方で、グローバル化の進展と呼応するかのように、学校現場には国際化の波が押し寄せている。国内で暮らす外国籍の子どものうち、公立小・中・高校に在籍する児童生徒数は2024年に13万8714人となり、この10年間で約2倍に増加。志茂田中のある大田区は、都内でも外国人の住民が比較的多い地域として知られている。

 「志茂田中に通っている外国籍の生徒は22人。外国にルーツを持つ生徒はさらに多い。中国やフィリピンをはじめ、さまざまな国の子どもたちがいる。かつては数が少なかったので特別な存在と見られていたが、今では教室で共に学ぶのが当たり前。こうした環境を学びに活用しない手はないと思っている」

 外国籍や国外にルーツを持つ「外国につながる子ども」の中には、日本語が全く話せない生徒も少なくない。青海校長によれば、民間の日本語指導教室に通い、あいさつなどの日常会話や生活習慣を学んだ後、志茂田中に入学してくるケースもあるという。

 「外国につながる子どもの教育にあたり、以前は『日本語の習得が第一』という考えが根強くあったが、最近は母語を重視する傾向に変化してきた。翻訳アプリや読み仮名を振ったデジタル教材を使うことで、言葉が通じない生徒同士でも会話が成り立っている。教材をきっかけにつながりを持てることは大きい」

 先ごろ開かれた中教審・教育課程企画特別部会では、日本語指導が必要な子どもに対し「教育課程の特例」の拡充を検討。日本語と母語の力を活用した「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」の一体的な育成に向けた議論が進められている。

 これらの動きを踏まえ、青海校長は「授業の面白さも、日本語の学びも同時に習得できるような取り組みが必要。デジタルの力も活用しながら、母国の学校に通っている状態に近づけられたらと思っている」と意気込む。

 多様な背景を持つ生徒たちの学び舎(や)――。そうした学校づくりが利点になるのは、外国につながる子どもばかりではない。日本の生徒にとっても言語や文化など、さまざまな「違い」に触れることで「海外体験のような効果がある」。青海校長はそう確信している。

 

【プロフィール】

青海正(あおみ・ただし) 東京都出身。1987年度、東京都青ヶ島村立青ヶ島中学校教諭として教員生活をスタート。世田谷区立世田谷中学校副校長、東京都教育庁指導部教育計画担当課長など教育行政12年を経て2021年度から現職。専門は数学科。休日は少年野球のコーチをし、時間ができたら、東京マラソンなどに挑戦したいというスポーツマン。楽しい学校を目指して「本気でやる」「今を全力で」がモットー。

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